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『プラトーノフ』@シアター・ドラマシティ 感想

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 作:アントン・チェーホフ

翻訳:目黒条

演出:森新太郎

出演:藤原竜也 高岡早紀 比嘉愛未 前田亜季 中別府葵

   近藤公園 尾関陸 小林正寛 佐藤誓 石田圭祐
   浅利陽介 神保悟志 西岡德馬

チェーホフが十代の頃に手がけた、元は上演5時間を超える長編戯曲が、ディヴィッド・ヘア脚色、目黒条さんの簡潔な訳のおかげで、短くスマートに。

1幕は湾曲したスロープ状のセットがメイン。出ハケが立体的に見えて面白かった。思えば、去年観た『カルメギ』(かもめの翻案)も、目まぐるしい出ハケを効果的に見せるストリート的なセットだった。同じく動線が印象的だった青年団の『ソウル市民』も、そうか、チェーホフ的だったのか、と今更納得した。

確かに面白いのだけれど、捉えどころのあるようなないような不思議な舞台だった。プラトーノフはいわゆるドン・ファン的。4人の女性を言葉巧みに翻弄する。未亡人アンナ(高岡さん)もまた、その比類ない美しさで男女問わず崇拝の的になっている。こう駒が揃うと、今にもアダルトな恋の駆け引きが始まりそうだけど、期待は早々裏切られる。みんなバカバカしいくらいに喚き、四つん這いになり(!)、髪を振り乱し、のたうちまわる、究極にカッコ悪い、色恋模様が展開する。2幕のプラトーノフなんて、客席まで臭ってきそうな、薄汚れた下着一枚しか着ず、ドンファンにあるまじき様相で、舞台を這いずり回っている。

歴史に名の残らない、いたって普通の人達が、凡庸な片田舎での人生に右往左往して、男も女もみっともなくもがいている。人生って多くの人にとっては、高潔なものではなく、つまるところ、こういうカッコ悪い日々の積み重ねだよね、と思う。でも、そこでは確かに、心も体も目いっぱいに活動して、明々と命がほとばしっている。 

プラトーノフの巧みな話術とそれに見合わない妙な子供っぽさは、藤原さん自身が持つアンバランスな魅力がそのまま活きていた。時折、過去に演じたハムレットに擬えられているのも面白い。素朴で実直な妻 ソフィアは前田さんにぴったり。マリヤの中別府さんは声がよく、パッションが弾けて面白い。そして、なんと言っても高岡さんが美しい…!この説得力ときたら。正直、『夜中に犬に起こった奇妙な事件』の時は、あまりいい印象がなかったのだけれど、ヘアメイク、衣装の着こなし、ナチュラルな所作、心地いい声音と明快な口跡―どれをとっても、崇拝せざるを得ないオーラを放っていた。やっぱりキャスティングって大事・・・。

アンナへの信仰を捨て切れたポルフィリは、あっさりパリへ旅立ってしまう一方で、プラトーノフに焦がれる女たちは、この地から逃れられず、くすぶり続ける。女達との約束を数多反故にしてきたプラトーノフが、老人とのチップの約束を守って死んでいくのも、何だか皮肉だった。結末のイワンの台詞がいまいち腑に落ちてないんだけど、きっと戯曲考察したら面白いんだろうな。あと、時代背景も。