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三谷かぶき『月光露針路日本』@歌舞伎座 感想

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みなもと太郎 原作 三谷幸喜 作・演出

幸四郎 猿之助 愛之助 松也 八嶋智人 新悟 廣太郎 種之助 染五郎 弘太郎 鶴松 松之助 寿猿 宗之助 錦吾 男女蔵 高麗蔵 竹三郎 彌十郎 白鸚

冒頭、大学教授風の松也がストーリーテラーで登場して、あれ?石田先生作演だっけ?となった。(最後ははぼ「猛き黄金の国」の絵面だし)不幸続きな運命に翻弄される男たちの生き様を、笑いとペーソスを交えた三谷節で描く、三谷幸喜初の歌舞伎座作品。

前半の漂流船上は、ぼんやり散漫な印象。話が進むにつれてキャラクターが絞られてからは、役者それぞれの味が滲み出て、加速度的に面白くなった。飄々としたコメディセンスの幸四郎、ニヒルながら実は情に厚い愛之助が、的確な舵取り役ならば、泣き笑いの猿之助はドラマを大きく動かす帆の役割。不幸話をコメディで描くという裏腹のベクトルを、まとめあげ昇華させる圧倒的な力が猿之助にはある。スーパー歌舞伎も精力的にやってるけど、

PARCO歌舞伎といい今回といい、私は、幸四郎の隣で全力発散する猿之助が一番愛おしいと思ってる。ふたりが永遠の別れを惜しむロシア式の挨拶は、このふたりだからこその信頼感と切なさが漂い、「凱旋門」のラヴィックとボリスも思い出す、名シーン。氷の大地でそりを引く犬たちに、「決闘!高田馬場」の登場人物たちの名前を割り当てて、思いがけず、猿之助の「立つんだ…安兵衛!」がもう一度聴けたのも、かなりの胸熱シーンだった。

バイプレイヤーの彌十郎さんの安定感にはいつも救われる。一方で、染五郎の今の彼しかできない初々しく真っ直ぐな芝居、染五郎との二人芝居をしっかりリードして、歌舞伎以外の芝居の才も見せつけた鶴松、茶目っ気たっぷりな新悟。花形チームの見せ所も多く、作品の熱量を高めていた。

さすが役者のあて書きが徹底していて、心浮き立つ場面はいくつもあったものの、作品としては「決闘!高田馬場」ほどまとまっておらず、台詞も転換も散漫としてしまっていたのは確か。

松也も八嶋さんも遊びすぎだと思ったけど、逆にあそこまで脱線しないと、場がもたないんだろうなぁ。PARCO歌舞伎の時は、猿之助だけが熱血キャラクターとして歌舞伎風に芝居がかっては、周囲から浮いて笑いを誘いつつも、話が進むにつれて周りも彼の熱量に感化され、全体が徐々に熱を帯びて歌舞伎化していき、クライマックスへと駆け抜けていく、構成の面白さがあった。今回も冒頭は現代風のお芝居で、そこから歌舞伎のパロディが何度も織り交ぜられた挙句、幸四郎猿之助愛之助の別れのシーンは、歌舞伎っぽい雰囲気(『俊寛』みたいな)を作り出してるものの、PARCO歌舞伎ほどの勢いというか、パロディがマジに転化するカタルシスは得られなかった。音楽的にも、舞台機構的にも使いこなせているとは言い難いし。(だからこそ逆に「ポーリュシカ・ポーレ」の発想が生まれたりするんだろうけど)(爆笑した)

それでも、最後の最後、小市が待ち望んだ「海から見える富士山」が、客席まで押し寄せた波間の果てに見えるのは、心震わす絶景だった。自分も一緒になって、苦難の果てにたどり着けた気分になったのか、ぼろぼろ泣いてしまった。

そして、去年の「桜の森の満開の下」もそうだったように、これが他劇場ならともかく、歌舞伎座で歌舞伎の一演目として掛かり、お客さんも普通に受容しているのは、単純に驚くと同時に、尊敬する。歌舞伎の何が好きって、そういう面白がる精神、懐の深さだなーと嬉しくなった。