だらだらノマド。

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『ピピン』@森ノ宮ピロティホール 感想

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城田優 Crystal Kay 今井清隆 霧矢大夢 宮澤エマ 岡田亮輔 /
中尾ミエ 前田美波里(Wキャスト) ほか

 

 

 

 

ダイアン・パウルスの新演出版を踏襲した舞台。トニー賞授賞式でのオープニングシーンのパフォーマンスが印象的で、そのイメージをもって観に行ったはずが、想像の100倍サーカス。幕開きの瞬間は何とも言えないわくわく感で自然と涙が出た。

リーディングプレイヤーを筆頭に、サーカスショーの劇中劇の形で展開していく。スリリングなアクロバットに色とりどりの衣装に美術と、とびきりマジカルで刺激的な要素を織り交ぜながら描くのは、神聖ローマ帝国 カール大帝の息子 ピピンの人生探し。サーカスパートを担当するのは、主にシルクドソレイユなどでも活躍している海外キャストなものの、城田優クリスタルケイも容赦なく宙に浮かぶし、中尾ミエ73歳に至っては逆さ吊りにされたまま歌いだす。今、わたしはものすごい光景を目撃してる…!という謎の興奮に包まれた。

劇中劇の入れ子構造により踏み込んだ2幕では、ピピンとそれを演じる役者がやがて二重写しになっていき、ピピンがようやく辿り着いた人生、ordinary lifeと引き換えに、サーカス道具やテントは剥ぎ取られ舞台裏や袖は剥きだしになって、マジカルな世界は瞬く間に消える。おまけに、照明は消え、俳優は衣装やヘアも脱がされ、オーラを失い立ち尽くす。前半が魅惑的な世界であればあるほど痛烈で、これこそ何よりもアクロバティックでスリリングな仕掛けかもしれない。同時に、舞台と客席、そしてマジカルな観劇体験とリアルな人生という沈黙の馴れ合いも破る。いわずもがな、人生の目的や意味を探す人はみなピピンなわけで、観客をただの見物人から、プレイヤーとして同じ舞台上に立たせるもくろみ。と共に、キャサリンの息子テオの人生探しの旅が幕を開ける。人生の数ごとに旅はあるし、時をめぐって繰り返されていく。縦にも横にもテーマがリフレインしていく、素晴らしいラストでした。

キャストは本当にみんなよくハマってた。中でも、群を抜いてよかったのは、リーディングプレイヤーのクリスタルケイ。歌が最高な上に、手持無沙汰感0、むしろちょっとした居住まいや仕草まで独特のオーラを纏ってて、ダンスもばっちり。彼女が出てくるだけでミステリアスでスペシャルなムードが漂う。後半の狂気すら感じさせるお芝居もよかった。ミュージカル初挑戦でこれって、日本ミュージカル史上かなり上位に食い込む事件では。今頃ミュージカルのオファーがめちゃくちゃ舞い込んでるはず。城田さんはモラトリアム期の青年が似合う人だと思ってたので、キャラクターとしてはぴったり。ただちょっとあらゆる面でパワー不足でリーディングプレイヤーに食われがちだったけど。エマさんはぶっとんでチャーミング、中尾ミエさんの色っぽさとチャレンジ精神に感服。清隆さん、岡田さんの軽妙さや、きりやんの久しぶりの溌剌としたダンスが作品の質を高めてた。

製作はフジテレビジョン。正直、ここまでリスキーな(金銭面、ケガや事故発生率的にも)作品をよく上演したこと、通り一遍の(券売のための)キャスティングにしなかったのも(何よりクリスタルケイにオファーしたこと)素晴らしすぎる。今年のミュージカル公演の中で一番の衝撃だった。