だらだらノマド。

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『キネマと恋人』@兵庫県立芸術文化センター中ホール 感想

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【台本・演出】 ケラリーノ・サンドロヴィッチ

【出演】
妻夫木聡   緒川たまき

ともさかりえ

三上市朗 佐藤誓   橋本淳
尾方宣久 廣川三憲 村岡希美

崎山莉奈 王下貴司 仁科幸 北川結 片山敦郎

 

 ウディ・アレンの映画「カイロの紫のバラ」からインスパイアされたKERA作品。1930年代の日本の小島へ舞台を移して、庶民のささやかな娯楽、映画を巡る恋の騒動を描く。16年初演から3年ぶり、待望の再演。初演を見逃しているので、元々気になっていた作品ではあったけど、TwitterのTLで大絶賛祭になっていたので、チケットを押さえた。

小洒落たオープニングシークエンス、キャストクレジットで既に半泣き。映像の使い方が毎回凝っているKERA作品の中でも、今回は特別。生のパフォーマンスとスクリーン間のインタラクティブ(に見える)な会話だとか、現実の世界と映像の世界が触れ合う、イマジネーションが交差する高揚感に満ちている。さらに、うだつの上がらない役者とその役者が演じる時代劇の三名目キャラを演じ分ける妻夫木さんの早替りもあって、マジカルな仕掛けが全編にちりばめられてた。

足しげく映画館に通うハルコ(緒川たまきさんが最高にキュート!)の元へ、映画に出てくる大好きなキャラクター 寅蔵と、そのキャラクターを演じる俳優 高木が突然現れ、恋に落ちる…。誰もが一度は夢見た展開。といっても、劇中何度もリフレインする”Cheek to Cheek”の”I’m in Heaven”が徐々に響きを変え、結末はかなりビター。

シェイプオブウォーター」を観た時のメモ通り、イマジネーションの世界は、「まるで怪人」なリアルで生きづらい私たちを励ましてくれる。ハルコも妹のミチルもモラハラ夫やヤリニゲクズ野郎に絶望して心も体もすり減る毎日を送っていて、けして幸せを謳歌しているわけではない。でも、というか、だからこそ、スクリーンの前では分け隔てなく“I'm in heaven”になれる。ところが、そのスクリーンの向こう側、そして、遠く離れた大都会 東京―同じぐらい手の届かなさそうな夢の世界―から、いたずらに「こちら側」へやってきて、つかの間幸せを振りまいては瞬く間に消えてしまう。後に残るのは、ままならない元通りの現実。辛い、本当に辛すぎた。めっちゃ泣いた。おい、高木…!!!(いきなり)でも、そんな辛い体験をしても、映画館のスクリーンを見つめると、ハルコの暗い表情がだんだんと晴れていく。あぁ…スクリーンの夢は少しも損なわれていないんだ。スクリーンには二重写しの夢が宿り、どんな辛い日常も煌めかせてくれる。単に、映画愛とか演劇愛にとどまらない、全身全霊のイマジネーション讃歌。10月にWOWOWで放送とのことなので、大事に観返していきたいな。