だらだらノマド。

趣味、日常をゆるゆる綴るライフログ。

ミュージカル『ビッグフィッシュ』@兵庫県立芸術文化センター中ホール 感想

f:id:kotobanomado:20200120094522j:image

■脚本:ジョン・オーガスト

■音楽・詞:アンドリュー・リッパ

■演出:白井晃

■出演:川平慈英浦井健治霧矢大夢、夢咲ねね/藤井隆、JKim、深水元基、佐田照(Wキャスト)、佐藤誠悟(Wキャスト)、東山光明、小林由佳鈴木蘭々ROLLY

初見。日生→クリエと初演からサイズが変わって、キャストも半減したよう。浦井くんやねねさん含め一人何役も演じ分ける小劇場スタイル。このコンパクトさが作品に合っていたように思う。エドワード役には川平さん。この難しい役柄に説得力を持たせられる人はなかなかいない。ひらめきに満ち、ウィットに富んでエネルギッシュ、落ち着きがなくていつも奔放ー川平さんの持ち味がピタリとはまっていた。妻サンドラ役のきりやんは「ラ・マンチャの男」よりも「ピピン」や今回のような役柄が似合う。軽やかでな身のこなしに、チャーミングな笑顔、完璧な衣装の着こなし。特に青いドレス姿の美しさにはうっとり。

ふたり以外もいつもの「帝劇キャスト」とは違った面々を揃えていて、意欲的なキャスティング。実際、1人ずつ見ていくと面白い部分もあった。ただみんなちょっとずつ芝居の力が足りないのか、目指す方向が違うのか、まとまりに欠ける。唯一帝劇主役組の浦井ウィルと夢咲ジョゼフィーンもパッとしない。真ん中に立つ川平さんもあくまで自分のテンポ感を崩さず、周りを見渡す余裕はない。となると、彼自身にイマジネーションのかけらを感じても、彼の目を通して舞台上のイマジネーションを感じ取ることができない。これはこの作品にとって致命的だと思った。

それに、作品としても、映画版に思い入れがあることもあって強制的に泣かされたけど、ミュージカル化することで新たな魅力を得たとは思えなかった。逆に、父と息子の対立がこんなにベタにミュージカルミュージカル描かれちゃうんだなぁ…と、残念に思った。後に書くように「ファンホーム」がチラついて、あの繊細さを基準に見てしまったのかもしれないし、激しく見切れる席から観ていたので(舞台上に無人の時間が30分くらいあったかも)、舞台へ入り込めなさも手伝ってたとは思う。おまけに、最後の最後、浦井くんの締め歌で子役が登場しないハプニングがあって、一気に、デトチリ大丈夫かー!?と現実に引き戻されたのもある。浦井くん、ずっと下手袖を観てたけど、結局出てきませんでした(直後のカーテンコールには登場)。

わたしは世の中の道理を理解するのが本当に遅いので、世間的には今更の話をしますが、数年前に「ファンホーム」を観たあたりで、家族(親子)って最も濃い間柄なのに、互いの半生を知り得ない、一緒に共有できる時間の少ない、なんて遠い存在なんだろう…ということに気づき…。親は子の将来を夢見、祈ることしかできないし、子は親のルーツを物語(今時の親子は生まれた頃からメディアに鮮明に記録できるのかもしれないけど)にしてしか受け取ることしかできない。(そういう意味で、子の名前は、一番短い物語であり、かつ、子の未来を託す祈りでもあって、親子が共有できる数少ない結節点なのかもしれない)それに、家庭にもよるでしょうが、一緒に過ごす時間ですら、親子の役割としてしか向き合っていなければ、その役割以外の個人の人となりをどこまで把握できているか、怪しい。(わたしは父の人となりを全然把握していない自覚あります)「物語らなかった父」@「ファンホーム」、「物語すぎる父」@「ビッグフィッシュ」の対照的な父親を探す旅を見て(ここに先週観た「ファントム」を加えてしまってもいいけど)何をどうやって物語り託すのか、逆に何を物語らず封印するのか、そして、どうやって物語を受け取め、その向こう側にいる物語の紡ぎ手に触れるのか、は、親子(家族)にとっての永遠の命題だなぁと思った。こういう作品を穏やかに見れるのは今のうちかな。親がさらに歳を重ねてからだと切実さが増して、直視できなくなるかもしれない。