だらだらノマド。

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宝塚花組『マスカレード・ホテル』@シアター ・ドラマシティ 感想

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ヤバい噂を聞いていたので覚悟して観たら、そこまで破綻してなかった。谷作品のヤバい基準が『キャプテンネモ』っていうのもあるし、そもそも映画版が酷かった…よね?こちとら、ホワイトボードが3枚並んだくらいではもう驚かないですね…。汝鳥さんがボックスステップ踏んでても何ら動じない、見据えるのみ。

映画寄りにカジュアルに味つけるのかな、と思っていたら、ごりごりのハードボイルドになっていて、谷先生のブレなさを思い知った。映画があろうが、現代日本の設定であろうが、(一昔前の)宝塚のフォーマットに容赦なく落とし込まれる。しまった、谷先生とはそういう男だった…!映画と大きく違ったのは、新田(瀬戸さん)の相棒 能勢(飛龍さん)が2番手ポジションになり、新田の可愛がる若手刑事になっていたこと。飛龍つかささんがはっちゃけて良いムードメーカーになっていた。ただ、能勢の力をもってしても、全体的に芝居が硬く、窮屈。ヒロインの山岸(朝月さん)が典型的な娘役芝居で、もうそろそろこの呪縛みたいな娘役という生き物から抜け出してもいいのでは…と思った。朝月さんといえば、わたしの中では『MY HERO』なので、こういう芝居以外もちゃんとできる人だと思ってるんだけど。犯人役の音くり寿さんが上手く声を使い分けて、好演していた。本性を現わしてからもう一押しほしいけど、宝塚的にはこれが限度なんでしょうか。

ハードボイルドな男役とあくまで清廉な娘役たち。わたしは、ホワイトボードより刷新されないこの古典的なフォーマットが気になった。柚香さんのプレお披露目で花組戦力大結集の「DANCE OLYMPIA」の裏でスターが欠ける中でも手堅くまとめられ、加えて、スター路線ではない瀬戸さんの立ち位置やキャラクターにもよくハマった作品だったとは思うけれど。

就職してからは、宝塚を中心に観劇しているわけではないし、年々、寄り添って見れなくなってきたという自覚はある。一番の引っ掛かりは、今回の作品に限らず、宝塚の世界と現実社会で求められる男女観の齟齬が大きくなって、宝塚が見せる保守的な世界観に夢を見られなくなってきたことかもしれない。宝塚的に何が正しくて、何を更新すべきで何がリミットなのか、作り手側はファンの願望や時代の流れを汲み取りながら、より自覚的になって欲しいと思う。宝塚が「時代遅れのコンテンツ」にならないために。もちろん濃淡や価値観の違いはあっていい。常に多様性を抱き込むのが宝塚の良さなので。そして、そういう一種のカオス状態から新しい作風なり男役・娘役像が生まれたり、逆に一つの作品やスターが新しいムーブメントを生むのでは…と淡い期待を込めながらゆるく見守っていきます。