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『エブリ・ブリリアント・シング』@茨木クリエイトセンター 感想

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エディンバラ国際演劇祭に参加後、各国各地を巡って、今回が日本初上演となる観客参加型の一人芝居作品。日本版は、谷賢一氏演出、佐藤隆太氏出演。Twitterで東京公演の感想が流れてきて初めて存在に気づいたので、既に大阪公演は完売状態。出張に乗じて東京公演のどこかに行けるか探ったけど日程が上手く合わずで半ば諦めていたら、大阪公演の戻りが若干出て、運良く行ってきた。

噂に違わぬ、凄い作品だった‥。大枠としては、精神状態が不安定で自殺未遂経験のある母親と共に暮らし育った主人公が、母親を、あるいは自分を勇気付けるために、この世にある「ステキなことリスト」を作る過程をお客さんにシェアしていく、というもの。日本人が欧米人を演じるというところでオリジナルよりも演劇的な側面が強くなっているとは思うけど、レクチャーパフォーマンスに近い作りになっていて、ジャンル横断的な、でも結果的には演劇の根幹を深くつく不思議なパフォーマンスになっている。

舞台中央には簡単な装置が置かれただけのアクティングエリアがあり、四方を300席くらい?の客席が取り囲んでいる。開演前から、佐藤さんは舞台面を自由に歩き回りお客さんと会話しながら、「1 アイスクリーム」のような単語が書かれたカードや小道具を渡していき、作品の「下ごしらえ」をしている。一気に作品に引き込まれたのは、序盤で、主人公が生まれて初めて経験する死、愛犬の死を大胆な見立てで再現するシーン。愛犬を安楽死させる獣医役を客席から招き、その人のコートを犬に、また別の観客から借りたペンを注射器に見立てると、開演前から作り上げられていた和気藹々とした空気感が一気に緊迫する。演劇ならではの見立ての力を、お客さんを交えながらさらりと発揮してしまうこの仕掛け。この思いがけなさと、その場で生じた磁力の強さに完全にやられてしまった。佐藤さんがリストの番号を読み上げれば、開演前に手渡されたカードを頼りに、客席のあちこちから「ステキなこと」が読み上げられる。その声の面白さ。声色の個性や読み上げられる内容とのマッチング、逆にギャップも面白い。この日は「1 アイスクリーム」の人が、リストの一つ目に相応しい希望に満ちた明るい声の持ち主で、物語がどんなにシビアな展開になっても、繰り返される「アイスクリーム!」の輝きがぶれず、泣いてしまった。

他にも、父親や恩師、妻など主人公を取り巻く重要人物は、佐藤さんがお客さんを指名して、必要によっては小道具も客席から調達しながら、即興で演じていく。自分の靴下を手にはめてパペットを通じて話すカウンセラーという超難しい役どころを容赦なく振られたお客さんも、素晴らしく見事にこなしていた。もちろんみんな素人なので、棒読みだったり、言い間違えたりもするのだけど、佐藤さんの見事なフォローもあり、それすら味になってしまう。この日だけの、偶々の、一度きりのキャスティングが、数えきれない思いがけなさの連鎖を生み、あの時あの場所にいた私たちの共通の記憶になり、素敵なことリストとして落とし込まれていく。あの時あの場にいた私たちの思い出すパペットは緑のスカーレットだし、愛犬は茶色、彼をとりまく人たちは、名前も知らない「あの人たち」なんですよね。何か…尊い気持ちになる。一回性やライブ性、共在のような演劇の根幹と醍醐味をもう一度じっくり考え直したくなる素敵な経験になりました。

しかし今思えば、キャストとお客さんの交流が肝になり、観客全員とハイタッチもあったし、ギリギリのタイミングでの上演でしたね。。。(実際、高知公演はなくなった)演技力だけでなく、アドリブ力、瞬発力、コミュニケーション力と色んなスキルが必要とされて佐藤さんにとっては超高カロリー&ハイリスクだと思いますが、是非東芸&りゅーとぴあ(であってる?)のレパートリーに加えて、定期的に上演していただきたい…。

ところで、この作品は「観客参加型」の一つとは言えるけど、イマーシブではない(といっても、言葉でうまく説明できない)と思ってる。その辺り、悲劇喜劇に『「「没入」と「参加」の境界を超えた観客──受容姿勢に対する『エブリブリリアント・シング』の挑戦──』という考察が載っているようなので、読まねば。