その3はその2に続いて北アルプス国際芸術祭を巡ります。
その1・2はこちら。
北アルプス国際芸術祭アートバスBコース
ルートインの朝ごはんをありがたく頂戴してから、芸術祭事務局へ。寒い。昨日出発した関西から比べると10度以上違う。
アートバス参加者の点呼が始まり、真っ先に名前が読み上げられたので元気よく返事したら、Bコースの参加者は私一人だけでした(そんなことが)。
この日は運転手さんの他にシルバー人材センターの加藤さん(仮)が添乗員として乗っていて道すがら色々説明してくれた。芸術祭には第1回から携わってきたそうで、コロナの時も芸術祭やったんだよ!誰も来なかったけど!と言ってはりました。そりゃそう。
信濃大町は黒部ダムへの玄関口であると共に、高瀬、七倉、大町ダムを有する町。磯辺行久さんの「北北西に進路を取れ」は七倉ダム下広場のランドアート。上から見るとこんな感じ。
七倉ダムは石を積み重ねたロックフィルダムで、武骨な存在感があります。ここを上がっていくと美しい湖が拝めるらしいのですが当然そんな時間はなく…残念。
ちなみに、このダムに向かうまでのぐねぐね山道の道中には葛温泉の宿が3軒のみひっそりと佇んでます。大町温泉郷じゃなくてこちらという選択肢もあるし日帰り温泉という手もいいなぁと思った。
次は、大町エネルギー博物館へ。
天候も相まって、マッドサイエンティストの館みたいな写真が撮れました。
残念ながらここの滞在時間は10分のため入館はできず壁観て終わります。淺井裕介さんの「土の泉」。大町で採取された13種類の土で描かれた絵はスケールの大きい古代の壁画のようでありながら可愛らしく躍動感ある動物たちが散りばめられている。
淺井さんと言えば犬島もエネルギッシュに彩ってくれていた。
続いて、今も実際に使われている猟師小屋を使ったスクリプカリウ落合安奈さんの映像作品「山の新音」。
檻など生々しい道具たちに囲まれながら猟師たちの営みと生物の死を見る。映像を見終わった出口には鹿の瞳に宿る死の色「碧」の道が続く。思えば建物全体の色も。ちょっとずっしりきてしまった。
次は2つの作品がある宮の森自然公園へ。春には花菖蒲、座禅草、夏にはホタルが楽しめるようですが、この日は寒空の中、熊よけの鈴を渡されました…え?
まず出迎えてくれる美しい蓮の花は平田五郎さんの作品。
小径に入っていくと小内光さんの「えねるぎの森」が。早歩きで鐘を鳴らしつつだったのであまり頭に入ってきませんでした(クマから身を守ることに必死)。
— たちばな (@daranomado) October 20, 2024
続いて大町温泉郷の旧酒の博物館へ。
博物館の展示と並行して松本秋則さんのサウンドインスタレーションが楽しめるようになってます。これが動き、音ともにユニークで可愛らしく、静まったかと思ったら急に忙しなく動き出し、まるでお酒の精の彼らがせっせとお酒作りをしているみたい。
— たちばな (@daranomado) October 20, 2024
これも平和でよかった。おはぎを食べたのと一礼したのが好きです。
越荒沢親水公園にはダナ・アワルタニ氏の作品。幾何学的な塩の結晶をモチーフにしているようですが、木々の合間に突如これなのでSFが始まりそうな予感。
ここも熊よけの鈴を渡されて、道路からすぐで奥深くないしさすがに大丈夫でしょとタカをくくってたら寡黙な運転手さんが、この辺りは本当に出るからね…とぼそっと呟き、恐怖でした。
Bコースの最後は、木崎湖のほとりにある信濃木崎夏期大学へ。そもそも信濃木崎夏期大学とは?と疑問が湧いていたんですが、大正時代にできた日本初の市民大学とのこと。確かに長野は学校教育に熱心というのはよく耳にするけど、明治の寺子屋数も日本一、そして子供だけでなく生涯教育としてこうやって誰にも門戸を開いている土壌があったとは知らなかった。歴史って繋がっていくものですね。そして驚くべきはコロナでの一時休講を経て今も現役で市民向け講義が行われているということ。素晴らしいです。
www.kizakikakidai.sakura.ne.jp
布施知子さんの作品。この場所が大町にとってシンボリックな場所であることは理解できたのですが、この黒幕なんかも気になってしまって作品と場所との融和性というか関係性が見えづらかったですね…。
加藤さん(仮)とお元気で〜また次回の芸術祭で!と手を振り合ってツアー終了。市街地を回る元気はあまりなかったので、せめて駅前の作品へ。
駅の真ん前にあるジミー・リャオ氏の作品。
そしてその隣にあるのは、微生物の落ち葉分解によって発生する熱を足湯として利用するというコンセプトの村上慧さんの作品。
受付のお姉さんが、作家さんは直にいけって言うんですけど、今日も大きな虫が出たし、なんせにおいが強いんですよ!とぶっちゃけてくれて、足入れる用のレジ袋をくれました。怖々浅めに足を入れただけでもじんわり暖かい。足冷えてたのでちょうど良かった(たしかににおうが)。微生物、ありがとう。
駅そばランチ~劇団四季記念館
お昼は通り過ぎる度ガン見していた駅そばで。待合室で手軽に美味しい信州そばを啜れるって最高じゃないですか(ここからほぼ毎食そばを食べることになります)。
信州らしいメニューが多いのも嬉しい。これは野沢菜とワサビ。ジビエなんかもあった。
お腹を満たしたところでタクシーで劇団四季記念館へ。まだ北アルプス芸術祭のざっくり概要しか出てなかった頃、過去マップを眺めて旅程を考えていたら目に飛び込んできた「劇団四季記念館」の文字。ここにあんの?!とびっくりしつつ、せっかくなので寄ってみました。
タクシーは駅前に常駐してました。記憶が朧げだけど2000円台で行けた気がします。
のっけから、タクシーのおっちゃんが間違って隣の倉庫棟の駐車場へ突っ込んで行ったためスタッフさんが関係者と勘違いして慌てて出てくるの巻。すみません、ただのオタクです。『ノートルダムの鐘』のあれこれもちゃんと保管されてるだろうか…。たまに倉庫ツアーもやってるそう。
ちなみに、バスで行く場合、公式では徒歩15分の「犬の窪」が最寄りと書いてるんですが、すぐ前にコミュニティバスの停留所がありました(↑にバス停写ってる)。本数が少ないけど、時間合うならこちらの方がおすすめ。路線としては、平(高瀬入方面)コースになります。
記念館の中は撮影不可なので入口写真。お客さん、0でした…。
劇団創設から現在までの足取りをたどる写真、台本、衣装、美術模型、小道具の数々。古の芝居オタクであるうちの母なんかはいまだに四季は新劇のイメージが強いと言うのですが、そんな劇団が今やディズニーミュージカル中心にレパートリー展開するようになった大方針転換がよく伺える内容でした。
ストレートプレイを根付かせる苦労、難しさを痛感するとともに、劇団をビジネスとして成り立たせるため、80年代にロイドウェバー作品でミュージカルに転換、90年代にディズニーミュージカルを先き取りして、いまやこれだけ各地でロングランし続けているって、改めて振り返ると、浅利さんの先見の明がもはや神がかりすぎていて鳥肌。
海外ミュージカルの展示は『オペラ座の怪人』のマスクや椅子、『ライオンキング』の衣裳(近くで見てももはや民族衣装のような美しさ)、スカーのマスクなどごくわずかで、オリジナルミュージカル(タングいた)を除けば、ストレートプレイ作品の紹介が中心。特に日下さんに特化した映像紹介や展示物が多かった。
わたしは母とは逆で物心ついた頃にはディズニーミュージカル中心でストレートプレイをする四季を知らないながら(今も細々とはやってますが)、ピーター・シェイファーの『エレファントマン』『エクウス』、神戸前泊の石岡さんの展示でも触れた『M.バタフライ』など好きな系統の作品(男と男が対峙する話)をよくやっていたのは知ってたので、かなり興味深く見れました。あ、今思えば『ノートルダムの鐘』って、この四季の系譜とディズニーミュージカルの交差点としても考えられるかもしれない。
特に惹かれたのは、金森馨さんの美術模型。中でも『エレファントマン』のセットの美しいこと!ここからも見れます。これをどうやって使って舞台化していたのかめちゃくちゃ気になる。
展示スペースの片隅では今上演中の『ゴースト&レディ』とかディズニーミュージカルのPVが流れていて、展示とのギャップに不思議な気持ちになった。モニターの脇では1988年〜アルプが自由閲覧できるようになっていて、Mバタやライオンキング初演時の新作がやってくる高揚感に溢れた記事にワクワクしたり、祐様の『スルース』の舞台写真を見て、やってたんかい‥!と衝撃を受けたりした。
そして、わたくし四季に推しがおりまして…。噂に聞いてた推しのノートルダム大聖堂訪問&ハンブルクの『ノートルダムの鐘』観劇記とクセ強Felix Martinとの2ショットを拝めたのも収穫でした。それにしても、歌って踊れて芝居ができてイラストが上手い上に文章力もあるとは…(また目をむく)。
さて、駅に向かうバスまでかなり時間があるので「犬の窪」を越え、なんとなく大町温泉郷に向かって歩いてみることに。この日は設備不良でやってなかったのですが、すぐ側に日帰り温泉があるのでここで時間つぶすのもいいかも。
本当に何もないけど、とりあえずまっすぐなので迷わない。
ちなみにこんな注意報が出てました(本日3度目のクマ出没のおそれ)。
さっきもアートバスで来た大町温泉郷に到着。かろうじて開いてた喫茶店で紅茶を飲みつつバス待ち。大型バスがやってきました。乗っているのはほぼほぼインバウンドのお客さん。
駅着。さようなら、信濃大町。郷土愛溢れる素敵な町でした。今度は黒部ダムも必ず!
松本への移動は深く考えてなかったのですが、ちょうどあずさに乗れる時間だったので乗ってみることに。ちなみに2号ではなく4号でした。大半が松本止まりなので信濃大町に停まるあずさは上下とも日に1本のみらしい。特急券対応の券売機は1機しかなくかなり混み合ってたので、えきねっとのチケットレスが良さそうでした。もちろんICカード不可。というか自動改札すらありません。
あずさは不思議な制度で、席が売れてるのか空席なのか頭上のランプでわかるようになってて、座席未指定券の人は自由に空席に座れるらしい。松本までは40分ほど。窓も大きくて乗り心地の良い電車でした。
松本からバスで美ヶ原温泉へ。バスは駅から横断歩道を渡って5分ほどのバスターミナル↓から出発するので乗り継ぎには注意が必要。長野を牛耳るアルピコバスはなんとSuicaに対応しておらず(来春から対応するらしい)、QRコード決済や路線によってはクレカタッチ決済もしているらしいけど、乗換案内アプリを使っていた時に出てきた松本タウンスニーカープラスというデジタルチケットが便利そうだったので買ってみた。美ヶ原温泉・浅間温泉を含め、松本近辺の路線バスが24時間乗り放題+松本城入場券付きというお得なチケット。
美ケ原温泉 旅館すぎもと
美ヶ原温泉へのバスは1時間に2本出ていて思いの外アクセスが良い。30分ほどで到着。思いっきり住宅街でたじろぐ。そこから1、2本路地を跨ぐといきなり旅館が立ち並んでいて、その中にひっそりと佇むのが本日のお宿、すぎもと。
今の住宅街が広がる光景からは想像できないけど、美ヶ原温泉は奈良時代に起源を持つ歴史ある温泉で、江戸時代に松本城城主が作らせた保養所「山辺茶屋」を元に、明治以降宿ができたらしい。
昭和初期に建てられたすぎもとの木造3階建の本館は今年有形文化財に登録。昭和初期の温泉宿の特徴を色濃く残しているようです。当然エレベーターはなく階段のみ。中庭と廊下。
お風呂。
途中サロン的なところもあります。
お部屋は、お風呂なし、お手洗い、洗面台付きの最もリーズナブルな「鉢伏」。
お一人様って割高になりがちじゃないですか。でもここはかなり良心的な価格設定。ちなみに、JALの特約店になっていて「温泉マイル」が貯まるのでJALカード持ってる方は予約時に伝えた上で提示するのがおすすめです。
夕食は地下道を渡って向いの建物へ。
お酒が進むお食事という前評判を聞いてて、私はほとんど飲めないので美味しくいただけるか若干不安に思ってたんですが、前菜の時点で美味しさを確信。
旅館のお食事ってどこの地域に行ってもなんとなく似通ってるかお洒落に振り切ってるかのどっちかだけど、ここはひたすら地のものが美味しく出てきます
岩魚のなめろうが美味しすぎてつい日本酒を頼んでしまった。
山の恵みもお肉も贅沢な美味しさ。信州サーモン(養殖鱒)は生ハムのよう。
うま味が凝縮された鮎の一夜干しに目をむき、飲めないお酒が進み、更に目をむく(酔いが回っている)。
松茸のお吸い物。
このお宿一押しの手打ちそばを追加していただいたんですが、このお蕎麦もすこぶる美味しくて。何もつけずにおそばだけ、塩、韓国産唐辛子、お出汁と徐々に食べ方を変えていくとまた味わいも変わる。特に唐辛子との意外な相性の良さには驚きました。そばつゆも美味しかった。
かなりのボリュームなので、ごはんはお夜食にしますね、と、おにぎりをくださいました(が、部屋に帰るなり食べた)。
はち切れそうなお腹を抱えてお風呂へ。かなり小ぶりの内風呂、露天風呂でぬるめの単純泉。貸切風呂は鍵が空いていたら入れるということだったんですが、残念ながら空いてませんでした。早々に就寝。