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『世界は一人』@シアター・ドラマシティ 感想

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作・演出:岩井秀人

音楽:前野健太

出演:松尾スズキ 松たか子 瑛太
   平田敦子 菅原永二 平原テツ 古川琴音

演奏:前野健太と世界は一人
(Vo,Gt.前野健太、B.種石幸也、Pf.佐山こうた、Drs.小宮山純平)

 

 

直前まで舞台の存在自体を知らなくて、 気になっていたハイバイの岩井さんの作・演だし、キャストも良いし、観に行きたいけど、もうチケット余ってるはずないよな…と、ダメ元でぴあをのぞいたら、あった。今月はドラマシティ皆勤賞。

いまは寂れ切って、

シャッター街となった地域に生まれ育った同級生三人が、
成長し、家族とモメにモメ、
窃盗で捕まったり、自死を計ったり、
上手く立ち回って、

人生の罠から逃れたりなどしつつ、

東京へ出て成功したり、

失敗しながら再び巡り会う、物語。

明快なパワーバランス(性格、親の経済状況)が成立する幼少時代から、中高でのしくじりや自意識の高まり、家族との不和などを経て成人になって、時に思いがけなく、人生を拓いていく局面ひとつひとつが、ほろ苦い。

海洋汚染を招いた有害な汚泥は取り除かれ、再び綺麗な海になった。でも、汚泥はこの世から消えたわけではなく、どこかに移されただけで、あり続けている。ある日、ふいに攪拌される、みたいな、誰もが見て見ぬ振りをするけど、忘れられない、人生のすすけた部分がさらけ出されていた気がした。

小学校時代の「おねしょ事件」で、良平(瑛太)は吾郎(松尾スズキ)に恥を擦り付け、吾郎は復讐する。でも、実は、美子(松たか子)が真犯人なのか…。吾郎からしっぺ返しをくらった良平は、家に引きこもる。孤独が膨らみ続けて、時間も言葉も記憶も引き攣れる。対して、吾郎の家庭では、過去の記憶を他人と共有すること、そのズレを愛おしみ、笑い合える幸せが描かれる。ただし、そのズレが余りにかけ離れると幸せは簡単に壊れてしまって、人は忽ちよりどころを失くしてしまい、孤独になる。

うさんくさい心理カウンセラーが言うには、自己の一部は他者が引き受けられる。過去の記憶を皆で擦り合わせて、思い出が出来上がるように、他者の補完によって自分が作られていく。一人の中にも他者がいる。人は、人との関わりの中でしか生きられない。一度傷ついた心はまた疼くし、自分のコンプレックスやトラウマから心を守るため、他人を傷つけ、傷ついて、生きていくほかない。

根っこが悲しいからこそ、吾郎と美子の「出会い直せばいい」ソングと、他者と通い合ったひと時の幸せがキラキラとより輝く。松尾スズキ氏の独特の存在感が良くマッチしていた。作り手としてよりも俳優としての方が好きかもしれない。瑛太は舞台でも上手い。おまけに歌もうまくて、私の中でルキーニ待望論が生まれた。松さんはよくも悪くも馴染まない人だと思う。(だからこそ「カルテット」のマキさんがハマっていた)

大きな鉄製の枠組みだけのセットが万能。シーンによって何にでも変身するし、遊具みたいに人力でくるくる回転する時、とっても、寂しそうな音を立てる。前野健太さんの音楽とも溶け合っていた。