今年はたまたま某社のアイドル主演ミュージカルを観る機会が多く、せっかくなのでまとめてみました。メモ程度です。
- 『20世紀号に乗って』@オリックス劇場
- 『モーツァルト!』@梅田芸術劇場メインホール
- 『ニュージーズ』@兵庫県立芸術文化センター大ホール
- 『DEATH TAKES A HOLIDAY』@梅田芸術劇場メインホール
- 『グラウンドホッグ・デー』@新歌舞伎座
『20世紀号に乗って』@オリックス劇場
クリス・ベイリー演出×増田くん主演というH2Sタッグによるミュージカル。近年翳りが見えるやり手演劇プロデューサーが一発逆転を狙って列車「20世紀号」の中でハリウッドの大女優に出演オファーを持ち掛けるも…。乗客を巻き込んだドタバタコメディ。
1930年代の戯曲をもとに1978年にミュージカル化されたもので、作品自体はかったるく、古さが否めない。となると、いかに良きハリウッド、ブロードウェイの時代の香りを漂わせながら粋なコメディに仕立てるか、というのが最大の見どころだと思うんだけど、主演二人が驚くほどその時代、役にはまっていない。
等身大で演じられたH2Sから3年経ち、増田くんもビジュアルだけ見るとしっかり年齢を重ねてるのに、所作も台詞も若く(悪く言えば舌ったらずだし洗練されてない)ショービズ界の栄光と挫折を経験した大人の男に見えない。というか、そう作ろうともしてない。対するヒロインのたまきちも、ビジュアルは確かに映えるんだけど、増田さん同様に洒脱な雰囲気もないし、芝居が一本調子。ウィットに富んだセリフの応酬のはずが、二人して台詞がテンポに乗り切れず、言葉が沈んでいく。おまけに歌もかなりキツく、か細い裏声には聞いてるこちらが手に汗握った。
主演二人が乗り切れない分、脇が手堅く、なんとか持ちこたえていた。戸田さんはもう少し歌のボリュームが欲しいけど、洒脱な空気感といたずらっぽさがいい。
上川さん、小野田さんはニコイチで縦横無尽に駆け回り、さすが歌もうまいし動ける。でも小野田さんはやっぱり器用すぎて、自分の色ではなく周りの色に染まってしまう人なんだなと今回も感じた。
かたや、近年2.5枚目のポジションを確立している渡辺さんのパンチ力。振り切ってコメディができるけど、ちゃんとクラシックな世界観を醸し出せて、なおかつ華やかな伊達男なんですよね。これができる人、貴重だと思います。可知さんも相変わらず全力でコメディやってて最高でした。
『モーツァルト!』@梅田芸術劇場メインホール
京本、香寿回。
美術、演出は前回を踏襲…なはず。ピアノを模した大ぶりのセットを廻したり、ピアノの屋根部分を開閉したりしては異なる風景を生み出し、加えて、オケピ前方に銀橋のようなスペースを組んで場面を繋いでいく。
ヴォルフガング初役の京本さんは別作品でも観たことがなかったので、全くの初見。涼やかなお顔立ちに加え表情の作り方や芝居がバウホールやドラマシティで頑張る宝塚若手男役そのもので、並々ならぬ求心力と演技力を求められるヴォルフガングには荷が重いなぁと思いました。
声も芝居も表情も色んな厚みがなく底が浅い。歌も決して音を外すとかでもなくちゃんとシャウトの高音まで出ているんだけど、音が言葉のフレーズとして連ならずポトリポトリと落ちていく感じで、音楽の世界も言葉のイメージも広がっていかない。再演を重ねるうちに歴代ヴォルフのようにこなれていくんだろうか。
対する真彩コンスタンツェも、もちろん歌は上手いものの、ニンじゃなさが前面に出てしまい芝居が固い。家に帰るなり平野綾様の「ダンスはやめられない」を確認してしまった。平野コンスタンツェは心の根っこから寂しくて、衝動的。動きも音楽にぴったりとハマり最高にドラマチックなんですよね。
きっと今回の主演コンビはふたりとも真面目なんだろうな…ロマンスのかかけらもない段取り感あふれるラブシーンをみてちょっと面白くなっちゃった。
プリンスになった弟とプリンセスになれなかった姉としてヴォルフガングと表裏になるナンネールの大事さに気づいたのは、韓国版を観て家族の物語として捉えるようになってから。今回はかつてコンスタンツェを演じていた大塚さんがカムバックして演じている。TdVのサラ→マグダとか、これは別役でと言うわけじゃないけど『パジャマゲーム』のグラディスとか、かつてヒロイン格を演じていた人がキャリアを重ねて脇の良い役で活躍するのって素晴らしくないですか。どうしても券売だよりのキャスティングになりがちで女性だと宝塚OGに偏りがちだし、そもそもミュージカルでキャリアを重ねた女性ができる役って男性に比べると少ない中で、こうやってしっかり活躍してるのを観るのは嬉しいし、実際大塚さんによくはまっていた。
たぁたんの男爵夫人は相変わらずの美声だったものの、さすがのたぁたんも年齢には勝てないのか、高音域がやや苦しくなっていた。悲しい。この曲とたぁたんの声は唯一無二のマッチングだというのは今も変わらないけど。
阿知波さんがビリー中なので、マダム・ウェーバーは未来さん。阿知波さんだと独特の色気と華があり、ただものではない女傑感が漂うのが、未来さんだと泥臭くサバイブする肝っ玉かあさんに見える面白さ。そのせいかウェーバー家のユニット感を強く感じた。アルコ伯爵の中西さんも良い具合にねちっこくいい味出してた。
個人的には初演組はもうええやろ派なのですが、主演コンビがあまりにもライトなので、山口・市村ペアの華、重厚感、圧が文鎮がわりになっていてむしろ有り難かった。
とはいえそれは作品全体の締まり具合の話で、対ヴォルフガングとして考えると色んな意味での力の差がありすぎて、バランスが悪いんだけど‥。
『ニュージーズ』@兵庫県立芸術文化センター大ホール
日本上陸のディズニーミュージカルはこれで制覇できたはず。
新聞販売の少年たち(ニュージーズ)を演じるキャストたちはしっかりとオーディションで選ばれたんだろうなとわかる実力派揃いで、ダンスだけでなく歌に芝居にとオールマイティっぷりを発揮するのがこの作品一番の見どころになっていた。というのも、彼らが労働問題のために立ち上がるというやや社会派のテーマが大味でご都合主義な物語運びで上手く描かれておらず、話的にカタルシスを感じにくいから。音楽はアラン・メンケンなので主題歌はさすがに耳に残るものの粒ぞろいとは言えない。演出は小池御大。いわゆる"キャラクターショー"が得意な人にこの手の作品を振ったのはなんでなんだろう?明らかに得意とする作品ではなく、強みを活かせていなかった。
初めて認識した主演の岩﨑さんはやんちゃで野郎みが強い。歌もしっかり歌えて手堅い。相手役の星風さんはヒロインらしい華やかな容姿で歌も破綻がないのに、芝居が圧倒的に弱い。在団時から幼い駄々っ子に見えがちだったけど、その印象変わらず。
劇場の女主人を演じる霧矢さんは衣裳(生澤美子さん)の着こなしが素晴らしく、コケティッシュな魅力も全開。やはりきりやんはヨーロッパじゃなくてアメリカ属性なんだな。出てくるだけでぱっと場が華やぎミュージカルの香りが漂う。
少年たちに新聞を卸す憎まれ役の田村雄一さんが最高に憎たらしく、さすがでした(田村さんのレ・ミの工場長に目がない)。キャストをチェックせずに行ったので、めちゃくちゃ晴華みどりさんに似たキャストいるな?!と思って観てたら、本当に晴華みどりさんで、なおかつ退団から13年と知って目をむきました。ビジュアルがあまりに当時のまますぎる。
『DEATH TAKES A HOLIDAY』@梅田芸術劇場メインホール
モーリー・イェストン作詞・作曲の作品を、宝塚初演と同じく生田先生演出で。美園さんバージョンで観ました。
第一次世界大戦で大量の死者と対峙して疲れ果てた死神が現世でホリデイを楽しもうととある一家にやってくる寓話コメディ。終盤ラブロマンス色が濃くなるとようやくバランスが取れてくるけど、中盤までのゆるふわコメディとタカラヅカ色が強い生田先生のビジュアル作り(『エリザベート』と『ファントム』を混ぜたような)と甘いイェストンのメロディが不協和音を起こしていた。それにしても、宝塚の演出家って本当にクレーン大好きですよね‥(『ニュージーズ』『DTAH』と連続で観た)。
主演は『エレファントマン』が素晴らしかったWEST.の小瀧くん。その後観た『ザ・ビューティフルゲーム』ではあまりピンとこなかったけど、今回の死神役は良くハマっていた。
なによりビジュアルが美しい。タカラヅカナイズされた軍服も驚異の等身でさらりと着こなし、”ロシアの王子様"と紹介されても納得しかない美しいアルカイックスマイル。品がありながらどこか寂しく冷ややかな眼差しで、良くも悪くも、無垢で人間臭さから対極にあるような、世界や人間から距離感がある役どころが似合う気がします。
『君の名前で僕を呼んで』のオリヴァー役をやってくれたら小躍りしちゃう。絶対合うと思う。
ヒロインの美園さんは相変わらず一人ものすごい熱量で突っ走ってました。ヒロイン グラツィアの父 宮川浩さんと母 月影瞳さんが手堅くこの作品の骨子になっていた。認知症で記憶が混濁したエヴァンジェリーナと彼女を優しく支えるダリオの老カップル役には木野花さんと田山涼成さん。芝居重視のキャスティングだと思うのですが、田山さんの活舌が怪しく、木野さんと共にもう少し軽やかでミュージカルの風も感じられた方が作品の彩り的にはよかったかなと思いました。
一応二番手のはずの東啓介さんはビッグナンバーはあるものの役柄的にはあまり目立たずもったいない。彼の妹アリス役の皆本麻帆さんは力強い歌声も華やかなビジュアルもフラッパー風のナンバーにぴったり。彼女の友人デイジーの斎藤瑠希さんはヘアメイクや衣裳含めもう少し居住まいに工夫が必要な気がしました。執事フィデレには宮下雄也さん。本当はここがもう少しコメディリリーフな気がしてて‥ちょっと重かったように思います。
『グラウンドホッグ・デー』@新歌舞伎座
ビル・マーレイ主演の映画『恋はデジャヴ』のミュージカル版日本初演。極力避けている福田雄一演出作品だけど、一度舞台で見たかったWEST.の桐山くん主演ということで観に行くことに。
冒頭から桐山くんの前説が長々続き、なかなか本題に移らない。さっそく嫌な予感が当たる。やっと本題が始まっても、度々の脱線、アドリブに中の人を弄るメタネタ…。何が辛いってタイムループものなので、そのしんどさもまた繰り返されること。特に戸塚純貴さん演じるネッドとのシーンが1つのボケをこすり倒して一向に進まず、本当に勘弁してほしかった。タイムループものってテンポよく繰り返すからこそ面白いのであって、その根底を覆すことをなぜやるんだろう…?
中盤の病院の場面ではドクターXとブラックジャック、カーチェイスの場面ではネコバスとなぜか福田雄一氏の顔の機関車トーマスが登場。貧弱かつ単純な連想ゲーム的引用をする演出的意図が心の底からわからない。もはや怒りとかでもなくただただ困惑。なんでこんないらんことを…???そういや『THE 39STEPS』でも汽車のシーンでメーテル出してたな。そんなこんなでこの日の上演時間は3時間半でした…。
セットは八百屋の仮設盆主体でそこに諸々足し込んでいく形(二村周作さん)。タイムループものなので円のモチーフが随所に施されている。ただし、この盆をうまく使えているかは甚だ疑問。アンサンブルの動線、ステージングがあまりに単純すぎるし、道具と役者のデハケが明かりが当たってる状態でバッティングする(頭にタオル巻いた演出部のおじさんががっつり見える)のも疑問でした。
という感じで本当に酷かったのですが、それとは裏腹に桐山くんのパフォーマンスは素晴らしく。ほぼ出ずっぱりの八面六臂の大活躍。まず、貫禄というか器のデカさと言うか、しっかり地に足がついていて求心力もあり、間違いなく真ん中の人なんですよ。それに、アイドルや映像の人にありがちな体、空間を持て余したり、動きが段どりくさくなったりもない(正直、他4作ではこれを感じた)。ちゃんと自分の体に落とし込んだ自然な仕草、動きになっていて、キャラクターが息づいている。
滑舌は悪くないのに台詞がやや流れるのが気になったものの、お芝居のセンスがよく、これだけ脱線しまくっても後半ホロリとさせるとこまで持っていくのはさすが。調子のいい自信家が、タイムループを繰り返すにつれ、ゲームみたいにだんだんコツを掴んで「最適解」を目指す器用さとか、ヒロインに1日を繰り返し続けてるのを打ち明ける時の脆さ、寂しさ、そこから何か吹っ切れたように周りの幸せのために動いてみる潔さ、するとみんなから異様に慕われ始める人たらしな雰囲気とか、桐山くん自身の魅力が滲み出ていて、ここまでのハマり役はなかなかお目にかかれないのでは。ループから抜け出してずっと夢見続けてた明日の朝日を見にいくラストもしみじみと良いんですよ。素晴らしい。
歌は全体的にもうちょっとリズムに乗れると良いかなと思いました。曲調によっては声質や音域、歌い方がビシッとはまるものもあって、Hopeなんかはめちゃくちゃ合っててボルテージあがった。
異様にアドリブも効くから余計に色々無茶振りされるんだろうなぁとは思うけど、これなら意味不明な引用の他にも脱線やら内輪受けのメタネタなしに真っ向勝負できたと思うし、普通にやってたら評価も違ってなにかしら賞も取れてたかもしれないとすら思った。ヒロインの咲妃みゆさんの等身大感もとても良きでした。