だらだらノマド。

趣味、日常をゆるゆる綴るライフログ。

『LUPIN』と『ベートーヴェン』

『LUPIN』@梅田芸術劇場メインホール

お噂はかねがねの古川雄大トップお披露目公演を文春砲に揺れる中観劇。

お顔の綺麗な人たちが絢爛豪華な衣裳に身を包み、全力でトンチキをやっている。

キャラクターショーとして過剰な萌えを生む見せ方(個人的には拷問にかけられる古川くんがはだけてるのより拷問にかける側の章平さんが上半身裸なのに爆笑した)、ツッコミどころ(ビカビカに光りながら右往左往する蝶ネクタイ)、気持ち悪さ(純潔連呼きもい、これを外部でやってしまうセンスやばい)、小池先生の好きなファンタジーモチーフの羅列などなど全てひっくるめて、完全に小池先生の宝塚オリジナル作品の新作やなぁ…と思いながら観ていた。

それにしても、芳雄さんがギャツビーで古川くんがこの作品でお披露目?なのはめちゃくちゃニンにあってて納得感がありますよね(念のため言っとくと作品が良いという話ではなくトップのカラーとしてあってるという意味)。

古川さんはおじいさんから女装まで変装しまくりながら、美しいお顔を多面的に見せてくれる。それでも、思わず目がいってしまうのは黒燕尾の真風さんの方。宝塚時代からの退廃的な雰囲気、独特の色気とオーラはそのままで、古川くんとの絡みも真彩さんとの絡みもどこか艶かしい。正直わたしがクラリスなら女とか男とかもはやどうでも良いので、ジェブール伯爵に拐かされたままで物語終了したい。全く持ち味が違う柚希さんならどう見えたんだろう。

純潔を連呼する真彩さんはただただ痛々しい。在団時から宝塚らしさを売りにする娘役ではなかったし、退団後もクリスティーヌやメアリーロバートよりルーシーの方が圧倒的に良かった人をこんな一昔前の宝塚ヒロインに押し込めるなんて。

ボーマニャンは相変わらず美しい顔を一瞬たりとも崩さないナルシスティックな立石さん。ボーマニャンって響き可愛いよね。ボーマニャン。

加藤くん、勝矢さんはとっても張り切っているのだけど、もう少し肩の力を抜いても良い気がした。小西さん、よくこの役受けたな。トンチキキングでした。

プリンシパルよりもアンサンブルの女性陣が並んだ時のドレスの色味、デザインのバランス感が最高に美しかったです(生澤美子さん)。OGふたりが男性に混じって踊ってたのも良かったな。ドーブ・アチアの楽曲は特に何も感じず、なんなら太田先生作曲と言われても納得するぐらい。本当に隅から隅までずずいっと宝塚でした。

 

ベートーヴェン』@兵庫県立芸術文化センター大ホール

おそらくクンツェ&リーヴァイコンビのラストを飾る集大成作品。

韓国での初演後日本に回ってきた作品で、演出家(ギル・メーメルト)や美術(オ・ピリョン)などはそのまま。音楽は、聴き馴染みのあるベートーヴェンの楽曲とリーヴァイのオリジナル曲が組み合わされていて、同じく音楽家の半生を描いたM!とは全く趣が異なり、なかばジュークボックスミュージカル的。

装置は巨大LEDパネルと柱状の可動式LEDパネルを複層的に使うのがメインで、あとは少しずつ前に足しこんでいく形。舞台奥のLEDを使った雨の背景の中、前景に部屋の装置があって、窓越しに雨天が見える…みたいなシーンは上手く奥行きが活かされていて素敵な質感に見えたのだけど、たいていは単純に奥に映像ドーン+小ぶりの前物を足す形になるので、どうしても単調かつチープに見えてしまう。

そして、そもそもの問題として、M!のようなテーマも脚本の鋭さもなく、2幕にいたっては音楽そっちのけで陳腐なラブストーリーになってしまう辛さ。

その上、主演2人以外のキャラの配置と処理があまりに雑で、とってつけたように現れては去っていく。今となればベスの方がまだ良かった、と思う程だし、ボロカス言ってた「fff」も案外面白かったのでは、という気すらしてくる(なんならあちらの不滅の恋人の描き方の方が、トート、アマデの系譜に近い)。

今回、ファンタジックな存在として登場するのは、トートダンサーならぬベートーヴェンダンサー。これが必要以上に浮いていて。まるで宝塚のショーのようなビジュアルでことあるごとに踊り狂うのだけど、これまでのクンツェ&リーヴァイ作品の中でも抜きんでてクラシカルな音楽感、手垢にまみれたラブストーリー、現代的でビビッドな映像の挙句の果ての謎のベートーヴェンダンサーなので、あまりにテイストがごちゃごちゃ過ぎて世界観が統一されていないため、なんのこっちゃ、と笑けてきてしまった。

駆け足でふんわり終わらせた物語のボーナストラック的にベートーヴェンが本物のオケピに入って指揮する演出とか、よくある楽譜いっぱい降らす演出もせめてドラマチックに見せようという苦肉の策なのかもしれないけど、うーん…手垢に塗れた映えですね…と意地悪な気持ちが芽生えてしまう。

かつてのクンツェ&リーヴァイ作品を神のように崇めてる身としては、作品の出来としては残念の一言でしかないのですが、クンツェ&リーヴァイ作品になじみ深いキャストが集結し、それを芳雄さんが束ねるという構図はさすがに感慨深い。

そして、その芳雄さんが正直これまで感じたことがないくらい丁寧かつ緊張感を持って楽曲に向き合ってるのが伝わってくるような全身全霊の歌声で、歌い上げる曲も多い中、全編素晴らしいパフォーマンス(ついでにカーテンコールのトークまでキレキレ)で観られたのが一番の収穫でした。

ヒロインの花總さんは相変わらずの年齢を感じさせない娘役芸(やや皮肉を込めて)、義妹の木下さんは尻切れトンボのもったいないお役でした。花總さんの夫フランツ(ややこしい)佐藤さんは全く掘り下げられて描かれておらず、ろくな台詞喋らないしょうもないヒール(ボロカス)なんですが、さすがの重厚感あるお声で歌い上げられたら誤魔化されちゃうよね。

ベートーヴェンの弟役の小野田さんは器用貧乏なんだろうな…と毎回思う。歌上手いしお芝居も破綻はないのに、芳雄さんぽくもWキャストの海宝さんぽくもあり、彼自身の色がわからないままさらっと溶け込み残らない。妻役のみりおんも同じく。

かたやクセの塊みたいな吉野圭吾さんの主張よ。本来吉野さんクラスの役じゃないと思うんですけど、衣裳の着こなし、たたずまい、ちょっとした身のこなしでしっかり物語の世界観とグランドミュージカルの華やぎを表現できるの素晴らしいと思います。そして動きとオーラがあの大箱に見合ったもので後ろから見ててもしっかり空気が動くのが伝わってくるんですよね。これは『TOP HAT』のコムさんでも感じたこと。たとえ大きなナンバーがなかろうが、年齢を重ねてバリバリ踊らなくなろうが、ミュージカルの空気感を生み出すことってできるんだな、と大変勉強になります。

芳雄さんのただならぬ意気込みとルドルフからの道のりを考えると大変グッとくるし、芳雄さん以外にこの役目を担える人はいなかったと思うので、クンツェ&リーヴァイ作品のゴールをこうやって見届けられたのは良かったですが、作品感的にはルートヴィヒ2世のミュージカルがご当地で上演されているような感じでやるのがいいんじゃないかなと思いました。