だらだらノマド。

趣味、日常をゆるゆる綴るライフログ。

『SPY×FAMILY』と『ジキル&ハイド』

SPY×FAMILY』@兵庫県立芸術文化センター大ホール

Wキャストは↓の通り。

ロイド・フォージャー:鈴木拡樹

ヨル・フォージャー:佐々木美玲

アーニャ・フォージャー:福地美晴

ユーリ・ブライア:岡宮来夢

原作を全く知らずに観劇したけど、「SPY×FAMILY」というタイトルから勝手に想像した通り、スパイのミッションのために擬似家族を作る話だった。ただし、擬似家族のメンバーには互いに秘密と思惑があり、それがいわゆるすれ違いコント的になっていて、予想外にもコメディとして気軽に楽しく観ることができた。

連載中の漫画ということもあってか、特に2幕はミッションそっちのけで、擬似家族の関係性と彼らを取り巻くキャラたちの紹介に話が移ってしまい、結局苦労してアーニャが入学した学校でのスパイ活動は宙ぶらりんのまま。

後半の失速感は否めなかったけど、それでも大掛かりなセットをダイナミックに転換し続け、盆も回しまくって、景気の良さは感じた(景気の良さ、大事)。ボルテージが上がりそうで上がらなかった『キングダム』を思い出しながら、観たかったのはこういうのだったのかもと思った(美術は松生紘子さん)。あ、でも、さすがにアンサンブルは贅沢使い過ぎてもっと整理できた気が(途中クワイヤ出てきたのは笑ったけど)。

音楽はかみむらさん。ミュージカルの印象がなかったので、どうなるか興味津々だったんだけど、ミュージカルらしく歌い上げるというよりは、常に流れている劇伴の流れに乗って自然と歌い出すものがほとんどで、この作品感にはぴったりだったと思う。

初めてお目にかかった鈴木さんはさすが2.5の方だけあってキャラの落とし込みが心地いい。2次元と3次元を橋渡す絶妙な声に聞き惚れていると、歌がえらいこっちゃでその落差に慄いた。ヨルの佐々木さんも同様でなかなか辛い。その中で一人歌い上げていたのが綜馬さん。お芝居も振り切っていて客席も沸いていた。そして、アーニャは歌にダンスにお芝居に大活躍で、何をしても反則的な可愛さ…なんだろう…子役特有のアクを抜いて可愛いところだけ凝縮したみたいな…私含めみんな身もだえしながら観ていた。

わたしにはとても正しい2.5次元の舞台に見えたんだけど、2.5を見慣れている人、原作ファン的にはどう見えたのかが気になるところ。

『ジキル&ハイド』@梅田芸術劇場メインホール

カッキー実験開始版。

Wキャストは↓の通り。

ヘンリー・ジキル/エドワード・ハイド:柿澤勇人
ルーシー・ハリス:真彩希帆
エマ・カルー桜井玲香
ジョン・アターソン:上川一哉

これまで観てきた石丸さんバージョンとはまるで別もの。周囲の無理解に苛立つ攻撃的なカッキージキルを見ると闇堕ちフラグしかなくて、石丸さんならこの実験は成功するかもしれない…何とか成功してほしいと願ってしまうところが、カッキージキルの場合、『フランケン』でも同じこと言うてたぞ、と100%失敗の気配しかしない。

ハイド出現後は、持ち味の熱量の高いお芝居がますますボルテージアップ。どうしてもこの手のグランドミュージカルになると、型芝居になりがち(そして観客もそれにカタルシスを得る)だけど、そんな予定調和を清々しいまでにぶち壊していく。

カッキーの場合、善悪の二面性というよりハイドがジキルの人格の中に眠っていた真の人格のように見え、どんどん歯止めが効かなくなってしまうのが余計に悲しく辛い。最後の最後にハイドがぶり返してしまう場面があんなにドラマチックだったとは…。

「時が来た」の絶唱っぷり、体も心も二つに引き裂かれてこのまま燃え尽きてしまうような全身全霊の「対決」はショーストップ状態で、こういうのが観たかった…!と思わせるヒリヒリしたライブ感があった。ただ、さすがにちょっと現代的すぎて、個人的にはもう少し時代感だったり、ジキルの紳士感がほしく、カッキー7:石丸さん3くらいの調合で見たい気がする。

対するルーシーの真彩さんは、色気がないのはご愛嬌ながら、歌の見せ場ではしっかりとグランドミュージカルの風を吹かせつつ、お芝居は繊細でしなやか。メアリーロバートよりこちらの方が断然合ってるのには驚いた。薄幸な空気感も相まって、ルーシーの最期がこんなに辛かったのは初めてかもしれない。カッキーとの波長もぴったりで、カッキーが生っぽい背徳的な空気感で支配する「罪な遊戯」のもはや咆哮に近い歌なんて、もう最高だった。

エマの桜井さんは歌は若干弱いものの、肩の力の抜けたお芝居で、これまで観てきた桜井さんの中で1番素敵だったし、正直エマってしどころのない役だと思ってたんだけど、今回初めて腹落ちできた気がした。

逆に、ジョンの上川さんはいかにもグランドミュージカルらしいお芝居で、もうすこし砕けたジキルとの関係性が見られれば、おのずと若い世代と科学に懐疑的な親世代の対立みたいな風にも見えたのかなと。

正直、テーマや楽曲の割に大味なミュージカル作品だと思うのだけど(何回見ても記憶に残らない)、カッキーのお芝居が新世代のヒロインふたりと上手く呼応し、絶妙なバランスのトライアングルが成り立ったことで陰影が増し、立体的に見えた。

ただ、そうなると、演出はこのままでいいのか…と感じてしまい…(特に、演出 山田さん×照明 高見さんとわたしの相性が悪いらしい…)。次回からカッキーで引っ張っていくことになると思うので(あの熱量でシングルでいけるか心配しつつ)、キャストの持ち味に合わせて、クリエイティブ面も刷新してほしい。