だらだらノマド。

趣味、日常をゆるゆる綴るライフログ。

『DREAM GIRLS』と『MEAN GIRLS』。

 

『DREAM GIRLS』@梅田芸術劇場メインホール

時代は60年代前半。壁面に書き殴られた数多くの罵詈雑言に埋もれるキング牧師の"I Have a Dream" からDreamsが光り輝き、幕を開ける(そして、トップスターの座を手にした後、それぞれの夢に向かって歩き出す彼女らを照らすのもまたこのDreams)。

幕が開くと舞台はニューヨーク アポロシアター。アマチュアナイト出場者たちのパフォーマンスと、ドリーメッツの登場~芝居が同時並行で繰り広げられるのを、レコードのターンテーブルのような小振りの仮設盆を回転させながら華麗に捌いていく。そして、彼ら、彼女らを照らす照明(齋藤茂男さん)の陰影の美しさときたら…!ショービズの表裏をドラマティックに表現していた。

ほか、壁面のセットには控えめに映像が映し出されたり(個人的にはこれぐらいの映像使用が好み)、どんでんの仕掛けが施されていて、ドリームズたちがスターダムを駆け上がる2幕以降は裏面の煌びやかな面に切り替わったりと、一見シンプルながらかなり凝った作りで、各シーンを滑らかに繋いでいた(美術は松井るみさん)。

モータウンの空気感やブラックパワー的な側面はあまり感じず(というか、日本で表現するには限界がある。そもそも歌で殴り合うようなパッションとか、ずっとリズムが刻まれててそこに大縄跳びみたいに次々飛び込んでいく感覚とかもなかなか難しい)、とにかくもたつきなく、そしてセンス良くシーンを繋ぎ、物語をまとめ上げることに注力していたと思う。

そんな美しくお洒落に整えられた舞台の中で、ソウルを息づかせていたのがソウルミュージックの歌手でミュージカル初挑戦のエフィ役 福原美穂さん。台詞は棒読みに近いんだけど、纏っている空気感と歌声の本物感。かつて『グランドホテル』で草刈民代さんがグルシンツカヤを演じていた時のように、スキルを超えていくミラクルを目の当たりにした。彼女の存在が作品にいい意味でのひっかかりを与えてくれていたと思う。それだけに今回観られなかった村川エフィがどういうアプローチをしたかめちゃくちゃ気になる。

その一方で、だいもん(望海風斗さん)は、興行面をのぞけば、彼女である絶対的条件は見当たらないように思えた。あと、各所で散々言われている通り、一応主演クレジットであるものの明らかにエフィの方がドラマティックな役だし、映画版に存在した"Listen"がないバージョンのためソロ曲すらないという意味でも、なんか難しい役だな…と思った。

そして、ローレル Saraさんの衝撃!文学座所属ということで、これからどういうお仕事選びをするかわからないけど、華やかでお芝居も歌も上手く、引く手あまたになること間違いなし。『ファントム』がますます楽しみになった。

カーティスのSpiさんは恰幅と雰囲気があり、Steppin' the bad sideなんかは動きもかなり工夫していてカッコいいんだけど、ワイルドなビジュアルに反して声が綺麗で癖がなさすぎて惜しい。後半もう一押し欲しかった。C.C.ホワイトの内海啓貴さんはややハスキーな声質が合ってた。

ジミーの岡田浩暉さんはナンバーも多く、カーティス以上にめちゃくちゃいい役でびっくり。難しい楽曲をなんとか歌いこなしているし、女にだらしないおじさんを憎めないキャラとして成立させて大健闘しているものの、やはりこの役はもう少しブラックミュージックみを感じさせる人が正解かと。ドリーメッツたちをプロの音楽の世界に引き入れるスターでもあるし、何より、カーティスの目論見通り白人に迎合した音楽で売れながらもソウルが捨てきれず"ぶっかえり"的にラップで捲し立てるのが、普通の羽目外したおじさんに見えてしまったのが辛い。演出もいいし素敵で上質だとは思ったけど、日本でやるの難しいよね‥という思いは最後まで払拭できなかった。

エフィとこの役が芯だと感じたので、逆にここだけでもしっかり押さえておくと、何となく空気感みたいなものは出せて、もしかしたら作品感も変わるかもしれない。

MEAN GIRLS』@森ノ宮ピロティホール

ティーンの女の子たちの話」といういつものごとくのざっくり事前情報で挑んだミュージカル。正直そこまで期待してなかったんだけど、これがめちゃくちゃ面白かった。

ケニアからの転校生ケイディが巻き起こすスクールカースト大逆転ブラックコメディ。ヒロインのケイディは生田絵梨花さん。ジュリエットの時には手と足が一緒に出そうなぎこちなさだったけど、不安げな転校生からカーストの頂点に登り詰め、そして…という変化を、歌も芝居も思い切りよく伸びやかに体現していた(大原櫻子さんだったらどんな感じだっただろう‥という興味も頭をかすめたけど…)。

ケイディの初めての友達になるレズビアンのジャニスに田村芽実さん、ゲイのダミアンに内藤大希さん。内藤さんの歌にダンスになんでもこなすのもさすがだけど、なんといっても田村芽実ちゃん…!彼女はTRUMPシリーズで初めて観て、上手い人がいるなーこれから出てきそう、と思ってたらあれよあれよと言う間にミュージカルスターとして大活躍するようになって。MUSICAL LABO『CALL』では瑞々しいお芝居に胸を鷲掴みにされ、『ヘアスプレー』のアンバーでは、最高にキュートなキャラに心を射抜かれたのに、今回またまた圧倒的ベストを叩き出してきて、もはや怖…!!となった。アーティスティックで個性的なキャラに憑依して歌もお芝居もこれまでとは全然違ったパワフルさで(アンバーからの振幅ときたら‥!)、こんな役もできるのかという驚きと共に、ますます大好きになってしまった。

スクールカーストの頂点に立つレジーナには、石田ニコルさん。これがまたこの上ないハマり役。もう登場シーンを一瞥しただけで、カースト最上位以外の何者でもないビジュアル、オーラだし、それだけでなく他人に対する態度とか言葉の端々から滲み出る空気感がもうカースト最上位の子あるあるすぎて、うわーこういう子いたー…(遠い目)と嫌な過去を思い出させるくらいリアル。立場が反転した後や、大団円へ向かう流れでのすっとぼけたコメディセンスも最高に冴えていた。このミュージカルはこのレジーナあってこそだと思うので、このキャスティングにも大拍手!

そしてレジーナの子分的なグレッチェン松原凛子さん、カレン松田るかさんのそれぞれのハマり具合も絶妙。今回の勝因は何よりこのキャスティングセンスだったと思う(大人チームは若干違う気もしたが)。

大枠としてはありがちな寓話的ストーリーながら、マイノリティ、同調圧力の生きづらさ、SNS依存と拡散、炎上のような現代的な問題にも触れつつ、自分らしく生きることの大切さを体感できるラストシーンが良い。

客席には生田さんのファンと思しきおじさん達、他のミュージカル作品と同じく自分も含めて30代以上の女性が大半を占めていたけど、もっと若い子たちにこそ見てほしい作品。もしかしたら救われる子がいたかもしれない。その客層とのミスマッチ感もあってか、ふんだんに盛り込まれたブラックジョーク(確かにかなり際どいのもあるけど)やパロディ(冒頭はライオンキング風)がことごとく不発で、客席が全く盛り上がらず、しーんとしたまだったのが残念だった。私の席位置からは台詞がかなり聞き取りづらく、それも一因だったかもしれないけど。