だらだらノマド。

趣味、日常をゆるゆる綴るライフログ。

『キングアーサー』と『バンズ・ヴィジット』と『キングダム』。

『キングアーサー』@兵庫県立芸術文化センター中ホール

『1789』のドーヴ・アチア作曲(ワイルドホーンもエクスカリバーのミュージカル作ってなかったっけ?と思ったら、それは今度また宝塚でやるんですね‥ややこしい)。

演出は韓国の若手演出家 オ・ルピナさん。小池先生なら物語重視で無理くり場面を繋ごうとしてただろうけど、物語はほどほどに、大勢のダンサーたちがほぼ出ずっぱりで八面六臂に踊り狂っていた(導入部のナレーションがまさかの鹿賀さんで、癖が強すぎてストーリーが見事に頭に入って来なかったというのもある)。

わたしは『1789』の日本版が超絶ダサいと思っていて、フレンチミュージカルは変に筋を通すよりも、いかにショーアップできるかに注力した方が正しいと思ってるクチなので、なんかわけわからんけど、祭じゃー!とばかりに右往左往景気良く踊り狂う今回の作品は嫌いじゃなかった。

さすがに、シビアなシーンの後にLED全開で、いきなりダンダリダンダリ手踊りし始めた時はふふってなったし、まぁまぁシビアな聖杯探しのランスロットの場面で異様に陽気な木の精たちもなんやねんと思ったけど、そういうとこも含めて宝塚のショー的にツッコミながら楽しむことができた。

わたしにとってアーサー王伝説といえばディズニーの「王様の剣」で、剣を抜いたところでめでたしめでたしなんだけど、このミュージカルでは王様の剣を抜き、実際に王に即位した後のアーサー王の苦難に焦点が当てられている。

キングアーサーには浦井健治さん。周りのキャラ付けがはっきりしている中、次から次へやってくる困難にずっと悩み続けている役で、歌もさほど見せ場があるわけでもない。そして何より、いつも同じ身のこなし、歌い方で夜神月にしか見えない…。

かたや権力の座と愛する女性の両方を奪われ、復讐に燃えるメレアガンに加藤和樹さん。劇中1番カッコいいナンバー「奪われた光」の激しいシャウトもばっちり。常に闇と哀愁を背負っている加藤和樹氏にぴったりな悪役で、後半悪に染まるにつれてKISSみたいになっていくメイクも似合っていた。ちゃんと悪役をこなしてくれる役者さんは魅力的ですよね。そういえば、浦井×加藤のこの構図、どっかで見たことあるなと思ったら『ボンベイドリームス』だった。あれも曲は良かったんだよね…曲はね…。

アーサーの姉 モーガンには安蘭けいさん。悪女としてのハッタリを利かせつつも、哀しい生い立ちを背負った孤独、寂しさが揺れ動く『ドルチェヴィータ』のディアボロを彷彿とさせるようなハマり役と感じた。

とはいえ、メレアガンとモーガンが手を組むシーンの後、いきなり祭感のある曲が始まって、ダンダリダンダリ〜と手踊りし始めた時には目が泳いだけど、ディズニーヴィランズぐらいの感じで思っとけばいいのかな、と無理やり腹落ちさせた。伊礼メレアガンだと、伊礼×安蘭のアイーダコンビがダンダリしてたのかと思うと、それもある意味観てみたかったな。

太田基裕さんのランスロットは、さすが漫画から抜け出てきたような王子様そのもの。ただし、歌のボリュームがないのが惜しい。ヒロイン グネヴィアは小南さん。ド ヒロインで出番も多い。これまで歌は素晴らしい反面、心ここに在らずな風情で芝居は圧倒的に弱いと感じていたんだけど、今回は一皮剥けたように感情を発散させ、まるで笹本玲奈さんかのような貫禄にもびっくり。所作も美しく華もあって、ちゃんと姫にもなれるので(姫できる人限られますよね…)、今後ますます期待。

あと、歌はなくお芝居だけながら、アーサー王の臣下ガウェインの小林亮太さんの甲冑姿が素敵でお芝居もよかった。2.5次元の方らしいけど、今後出てきそうな気配。そういえば、東山光明さん演じるコメディリリーフ的な役回りがいかにも韓国ドラマに出てきそうなキャラで、オ・ルピナさんの味付けかなと思ったんだけど、どうなんだろう。

 

『バンズ・ヴィジット』@シアター・ドラマシティ

本来交わることのなかった人たちがひょんなことから出会い、特段大きな事件が起きるわけでもなく、毎日の暮らしに少しのさざなみが起きるだけ…って、ドストライクな話のはずで、しかも森新太郎さん演出ということでかなり期待をしていたんだけど、意外と刺さらなかった。

美術(堀尾幸男さん)も洒落てるし、音楽隊チームの役者・演奏家二重の意味でのPlayerは素晴らしいし(とりわけ台詞の多かったクラリネットの中平良夫さんがあまりにお芝居がうまく驚いていると、特技がクラリネットのベテラン俳優さんだった。この特技の活かされ方究極すぎるしキャスティングも素晴らしい!)、彼らの紡ぐ中東ミュージックも好み。

でもそれをもってしても、カリカチュアされたキャラクターとリアルな空気感のキャラクター、ミュージカルであることのバランス感が私の中でどうも上手く消化できず、ノレなかった。風間さんや色男で周りから浮きがちな新納さんはよくハマってたと思うけど、矢崎くんとか岸さんとかエリアンナさんの役なんかは具合が難しいよね…。あと、こがけんさんの電話を待つ男は、出番は少ないものの、最後に何も事件は起きないながら「ささやかな結末」に向けてのトリガーになる役なので、それに見合う役者さんであるべきだったと思う。

とはいえ、はまめぐさんのOmar Sharifが素晴らしく、それを聴けただけで満足感は得られた。普段、日本未上陸のミュージカルナンバーはいつか日本で観る時のためにあまり聞かないようにしてるんだけど(かつてアイーダを聴きまくってしまい、実際観た時に曲中心の見方をしてしまうのが悲しかった)、トニー賞でのJatrina LenkのOmar Sharifばかりは、いい曲すぎるのとパフォーマンスがあまりに素敵でヘビロテしてた。

役柄的にもはまめぐさんのクセみたいなものと上手く合致していたと思うし、Katrina Lenkは訥々と言葉を音に乗せていくイメージなのが、はまめぐさんだと独特の甘ったるい声で蠱惑的に響くのも良かった。

今回初めて歌詞の意味をたどりながら聞いた。遠く馴染みないイスラエルから、これまた遠い異国の地エジプトへの憧れを乗せて思いが高まる歌声に「ジャスミンの風」が吹き込む。まるで本当に旅先で異国の人と出会ったかのような不思議な高揚感と郷愁を刺激されて泣いてしまった。

Omar Sharifのメロディへと繋がるSomething Differentも良かったな(出だし、椎名林檎の曲にありそうな音運びじゃない?)。

 

『キングダム』@梅田芸術劇場メインホール

なかなか歌わないなーと思って観てたら、そもそもミュージカルじゃなかった。中国物という事前情報だけで観たけど、どうや、秦の始皇帝の話らしい。ビジュアルや空気感にダイナミックさもなく、宝塚オリジナル作品でいかにもありそうなストーリーと装置転換が続き、さほど面白みを感じられないまま1幕終了。

2幕は激しい立ち回りが多く、動ける人たちが舞台いっぱいに機敏に動き回っているはずなのに、意外と盛り上がらない。例えば、新感線やスーパー歌舞伎なら、しつこいくらいに各々の見せ場を作るし、照明や効果音、その他仕掛けで効果的に盛り上げるであろうところが、さらっと流れてしまう。せっかくの早乙女友貴ですら、活かしきれていないもったいなさ。

帝劇初の本格?2.5次元ということで、情報解禁時の動画とかPVとかかなり凝った作り込みをしていた印象だったのに、いざ本編となると、2.5次元要素も特段なくいつもの堅実な山田演出で、松井るみさんの装置も今回は良いと思えず、照明(高見和義さん)に至っては20年くらい前のファミリーミュージカルかな…くらいのダサさで、あまりのギャップにびっくりしてしまった(暗転が多く度々目潰し的なことをせざるを得ないのもあるかもだけど)。やはり帝劇作品となると、新しいことやるの難しいんだろうか。

信は三浦宏規くんのみしか観ておらず、ヤンチャな風情もありながら、しっかり動けていた。漂・嬴政は小関裕太くん、牧島輝くんで。小関くんだとタッパがあって舞台映えするはずなのにあっさりしすぎていて三浦くん単独主演に見えていたところが、牧島くんになると三浦くんとのバランスもよくちゃんとW主演に見えた。牧島くんのビジュアルとギャップのある渋い声も王の威厳に一役勝っていたように思う。ラストも、まだ完結していない漫画らしく今後の展開を感じさせるワクワク感があり、このふたりのエネルギッシュなオーラも相まって良かった。

河了貂は華優希さん。在団中、お芝居ができるイメージを持っていただけに、ずっと急いているような感じで段取りになっていたのが残念。楊端和は梅澤美波さん、美弥るりかさんで。1幕終了間際にみやるり演じる楊端和が仮面を外すところで一気に華が広がり、ようやく主役が出てきた感があって、やっぱり宝塚のスターさんってすごいんだな、としみじみ。ただ、そのシーンがハイライトでそれ以外は意外としどころがない役だった。

山口祐一郎様に至ってはもう何が正解なのかよくわからないけど、原作知ってる人に聞いたらあんな感じと言ってた。どうあれ、あのタッパでの甲冑姿は映える。

2幕でいきなり始まる嬴政の過去パートで紫夏を演じる朴路美さんが、完全に場を掌握して鳥肌もの。自らの命を懸けて幼い嬴政を秦へと帰す見せ場を最大限に美味しく調理していてあまりに清々しかった。『BASE METAL』でも感じた通り、声優さんのファンタジー世界の構築の仕方は普通の役者とはまた違った味わいがあるし、その瞬発力が異様に高くてびっくりする時がある。間違いなく今回のMVPだった。