だらだらノマド。

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庭劇団ペニノ『蛸入道 忘却ノ儀』@ロームシアター+「ドレス・コード?」

『蛸入道 忘却ノ儀』@京都ロームシアター ノースホール

作・演出:タニノクロウ

出演:木下出、島田桃依、永濱佑子、西田夏奈子、日高ボブ美、森準人、森山冬子、山田伊久磨(五十音順)

『ダークマスター』で興味を持った庭劇団ペニノ。最近ハマっているイマーシブシアター的な作品らしいのでS先輩と共に観にいってみた。

本作では、寺院を模した空間を劇場に建立し、観客はその内部に招き入れられるだけでなく、俳優たちが執り行う儀式的なパフォーマンスに巻き込まれていく。8本の足、3つの心臓、9つの脳を持ち、その不可思議さから宇宙から到来した生命とも呼ばれる蛸が空間と祭事のシンボルに据えられる。経典の反復とヴァリエーション、かき鳴らされる楽器、閉ざされたお堂の中に充満する香りとねばりつく熱気。観客の五感もまた俳優のそれと同様に総動員され、音楽的な快楽に身体を明け渡し、時間感覚を見失ってしまうようなあやうい没入感から逃れるのは容易ではない。リアルとフィクションの境界が溶け去り、トランス状態に達した時、わたしたちはなにを忘却してしまうのか。

ノースホールへ続く階段を下りると、ロビーから既にパフォーマンス用の準備が始まっていた。お客さんはお札に自分の願いと名前を書かされて、蛸壺に入れさせられる。そいざ劇場へ入ると、紹介文通り、お堂そのもの。経本と打木や鈴などの楽器をもらい、壁沿いのベンチ状の椅子、もしくは地べたに敷かれた座布団に座る。作・演出のタニノクロウ氏からだらだらとした制作意図の説明があり(小劇場の前説問題がまた発生…)話の最後に、お堂の中央にある盧に火をつけてだんだん暑くなるので、上着は脱いでおくように、との注意喚起が。

「儀式」には第16節まであって、観客は節ごとに区切られた、般若心経をもじった経本を目で追いながら、お堂の中央で繰り広げられる信者たちのパフォーマンスを五感で感じ、時折自分も参加する。通常の観劇のように見る・聴く行為に集中せず、むしろ注意散漫に日常生活に近い形でいくつかのレイヤーを切り替える。節を追うごとに、教義やお堂のいわれや構造の情報を経本から得て、儀式に立体性が出てくると、根も葉もないエセなはずなのに、不思議と厳かな気持ちにさえなってくる。さらに、お堂の戸や窓を閉めたり、盧の蓋になっているお札を壁に立てかけたりする作業は観客に任せられ、儀式の一体感や信憑性を増していく。盧に火をつける作業中、役者さんが火がつかないそぶりで場内にいるタニノさんのところへやってきて、タニノさんが急いでチャッカマンで火をつけた。見ている時は本当にアクシデントかと思ったけど、後々冷静に考えてみると、消防法的にこんな大々的に火を使えるはずもなく、これも演出の一つだということがわかる。上着を脱ぐように、という注意喚起も、役者さんたちが重ね着した服を脱いでいくのも、お香の匂い、煙が立ち込めるのも、途中で観客に水が配られるのも、熱狂度が上がりトランス状態へ導く仕掛けとして巧妙に仕組まれている。ただ、肝心の中身が、グレゴリオ聖歌風のお経まではついていけるとして、エレキギターや三味線が飛び出したり、いきなり民謡調になったり、と、トランス状態へ導くための実験のヴァリエーションとしては面白いけど、当初の設定からは大きくかけ離れ、節ごとの前後の流れもあまりに唐突すぎてボルテージが上がらない。役者さん達がトランス状態の芝居をするのも逆に白々しく(台本から逸れて恍惚に浸ってしまうていで、タニノさんが次のパフォーマンスへ進むようひと促す)、醒めた目で見てしまった。とはいえ、儀式後、お堂の窓や扉を開けると、陽(照明)が差し込み、不思議とやり終えた充実感に浸れるのですが。
東京では「BEAT」というツアーパフォーマンスが話題になっていた。こちらも楽器を使った熱狂的で祝祭性豊かなパフォーマンスのよう。

演劇の源流の一つはこういう儀式・祭的パフォーマンスだったはずで、こういう原初体験に立ち返るのにも興味がある。     

観劇後、さっさと帰ろうと思っていたら、「ドレス・コード?」展@京都国立近代美術館チェルフィッチュの映像演劇が出展されていることに気づき、近いので行ってみることに。残念ながらファッションセンスは皆目ないのですが、単なる服装史的な展示ではなくて、性や社会的属性、キャラクターがいかに服飾によって表現/規定されるか、という展示だったので、面白かった。チェルフィッチュに加えて、マームとジプシーの作品もあったし。これはイノサン


チェルフィッチュの映像演劇は美術手帖で読んで気になっていたもの。自分は演劇畑だから演劇の文脈から捉えられる気もしたけど(美術手帖も読んだし)、正直、一つだけでは、よくわからなかった…。マームとジプシーは物語性、キャラクター性に特化したもの。

チャプターごとに26人の女性それぞれに紐づいたアイテムが提示されて、パズルのように組み合わせていくと、暮らしだったり、人物像が少しずつ見えてくる。捜査みたい。さらに、真ん中のテーブルに、女性たちの何気ない会話がカードが無造作に置かれていて、持ち帰りOK。

思いがけず、滑り込みで行けてよかったです!