脚本:竹村武司
作詞・演出:永野拓也(hicopro)
出演:湖月わたる 朝海ひかる
廣瀬友祐 迫田孝也 飯野めぐみ 可知寛子 高橋卓士 宮島朋宏
Twitterで言い尽くした感…
でも、長文になってしまった。
震えるほど面白かった。宝塚OGとそのファンにとっては超刺激的なテーマ。湖月わたるの向こうに透け見える本名の部分までまるごと「ああ、この人のファンで本当によかった…!」と思わせてくれて、30周年に相応しいとても幸福な作品だった。 pic.twitter.com/4spHg72Iv4
— ノマド。 (@daranomado) 2019年7月21日
出演者のキャラや人柄への絶大な信頼なくしてはできない難しい企画ではあるけど、「ドキュメンタリーミュージカル」、これからもっと流行るのでは…?
— ノマド。 (@daranomado) 2019年7月21日
前にこういうこと書いたけど、この「神遊び」タイプとは真逆。宝塚を、宝塚ファンを知らない、演劇畑でもないクリエイターだからこそ作れた奇跡の作品だと思う。
— ノマド。 (@daranomado) 2019年7月21日
わたるさん30周年公演。「2019年1月~6月まで”婚活”をテーマに湖月わたるがクリエイターと過ごす半年間の記録をミュージカルとして上演する」という画期的な作品。周年なのに何故ドキュメンタリーミュージカル…?30年を振り返るっていうならわかるけど、何故よりによって婚活…?とタイトルの出落ち感に疑問ばかりが浮かんでいた。しかも、脚本は放送作家として山田孝之氏の出演作品を多く手掛ける竹村武司氏、作詞・演出は若手演出家として頭角を現す永野拓也氏という宝塚とは縁もゆかりもないクリエイターたちが名前を連ねていて、宝塚ならびに宝塚ファン(が一番怖い)内の暗黙のルールを平気で破り、土足で踏み荒らすやつや…と震えていた。
メタ構成になってる。3面の装置をスクリーン代わりに、30周年企画の打ち合わせやインタビュー、合コンやデートの様子が手ブレ、ノイズありの生っぽい映像で映り、それと連動してパフォーマンスが進行していく。これが、いわゆるテレビ屋さん的なイタイ感じにはなってなくて、ちゃんと連動しながらシーンに落とし込まれているのは永野さんの力量なんだろうか。ミュージカルナンバーは、既存曲0(愛あればこそは一瞬歌う)のオール書き下ろし。 ちょっと曲数多すぎ、長すぎではあるものの、オープニングとかモテ本指南とか特に前半のナンバーはテンポ感も良くて楽しい。 後半戦はメタ構成ゆえのひとひねり。わたるさんが不器用で真っすぐで一所懸命なあまり、恋愛を一番に考えられない=30周年企画の破綻を迎えてしまい、結末が宙ぶらりんに。舞台上のわたるさんの困惑、葛藤する姿がノイズ交じりにスクリーンに大写しにされて、「芸名」と「本名」のわたるさんがハレーションを起こしてしまう。
上手いのは、チーフマネージャーが亡き父に、婚活相手からのメールや電話が父からの手紙、さらにファンレターへと公私をダブらせながら、リレーさせていくこと。わたるさんの生き様や最後の決断の答えの意味は全て父からの手紙に凝縮されている。結局、婚活を辞め、今まで通りファンレターを糧に舞台一本に打ち込むのは、一見、ご都合主義なオチかもしれない。でも、お父さんの手紙を指針に人生を歩んできたわたるさんを、今度はファンたちがみんなで一緒に鼓舞してるって思うと、グッときませんか。わたしはグッときます(後半ボロ泣き)
少し話が逸れるけど…PoBの時、ジョシュ・グリセッティが、「宝塚のスターはなぜ結婚できないの?人権侵害では?」とTwitterで呟いた。至極当然な疑問だと思うんだけど、宝塚ファンの中で大炎上した。何が怖かったかって「彼女たちは望んで宝塚に入ったんだから良いんです!!」と言い返してる人、それに賛同する人がいっぱいいたこと。え…本気でそう思ってるの…?というか、芸名の下のパーソナリティの部分を何故他人がそんな軽々しく決めつけてしまえるの…?と戦慄した。 宝塚入団って、人生の大きな選択肢を10代半ばで決めなければいけないわけで、当然ながら年を経るごとに人生観も目標も優先順位も変わる。それでも宝塚の舞台を選ぶか、結婚を含め違う道を選ぶか、ほぼ全員が表には言えない色んな葛藤を抱えた上での選択なはず。残念ながら、結婚か、仕事か、は古い問題ではなくて、一般人の我々ですら普通にあるし、芸能なら、そして宝塚なら、なおさら切実な問題。だからといって「結婚を許可したらええねん!」というつもりはないけど、少なくとも私たちの見る夢が、色んなリアルの努力や葛藤、ときには犠牲の上に成り立ってること、それに、それがその人の人生の全てではなく一面で、しかも無限にある可能性の中の一つの選択肢でしかないという意識は常に持っていたい…というか、わたしはPoB事件までファンと呼ばれる人たちの大半が持っている共通感覚だと思っていた。 そんなゴタゴタを覚えていたので、「いじらしい婚活」はOG公演とはいえ、宝塚ファンにとっては非常にセンシティブな部分をついた、一歩間違えば炎上必至だとビビっていた。でも、そんな刺激的要素を抱えながらも、わたるさんの恋愛を通して伝わってくるのは、芸名の下にある本名の部分の可愛さだったり不器用さだったり、自分探しや譲れない生き様だったり。もちろん、ドキュメンタリーと謳ってはいても台本のあるフィクショナルな物語で、意地悪な見方をすると結局はファンに媚びるだけのご都合主義なオチかもしれない。でも、たとえそうであれ、芸名と本名の擦れ合いをファンに曝け出せること、そしてファンがそれを受けて笑ったり泣いたり共感したりして、芸名の下にある本名の部分もひっくるめて、「あぁ…この人のファンでよかった!」と心底思い、舞台生活30周年だけじゃなくわたるさんの人生をまるごと祝福するって、なんて幸福なフィードバックだろう…。わたしはそれが本当に嬉しくて嬉しくて、ずっとむせび泣いていた。
冒頭引用したTwitterの通り、いわゆる神遊びタイプとは全く違う、つまり、幻視するんじゃなくて、むしろその人自身をまるごとできる限りリアルに見る、新しいタイプのOG公演の形だったと思う。 ただし、キャスト自身の人柄や、何よりファンの人たちへの信頼感を以てして初めて成立するわけで、PoB的なことを思い出すと、こんな幸福な関係が築ける人たちが、どれだけいるんだろう…と思う。悲しいかな、そういう意味でも、これは奇跡の公演だった。
ちなみに、なかなか新鮮なキャスト陣で、廣瀬さんは婚活相手その1。出番が少なくかなりもったいない使われ方。迫田さんもしかりで婚活相手その2。しかし、さすが出てくるだけで芝居の温度感が変わる。アンサンブルもスーパー芸達者な方たちで超豪華。 そして何と言ってもわたコムですね。無限の夢と可能性を感じました。熱血なわたるさんをクールにあしらうコムさんの図がたまらなく良く、こういう相性もいいんかー…!っていう驚き。 宝塚OGって華やかな舞台に出がちですけど、こういう肩に力の入らないナチュラルなコメディとかお芝居、この2人でもっと見たい! OLものとかもできそう…(夢が広がる…)
本当に色んな発見のある、最高の周年公演でした。多分これからもことあるごとに語り継いでいく…。素敵な体験に感謝…!!