だらだらノマド。

趣味、日常をゆるゆる綴るライフログ。

『パラサイト』と『ミッドサマー』


f:id:kotobanomado:20200329142507j:plain

遅ればせながら、ようやく観てきた。(2月の話です)
半地下に棲む貧困一家とセレブ一家の対比をシニカルに描きつつ、口から出任せでセレブ一家の信用を勝ち取り芋づる式に一家丸ごと寄生していくブラックコメディ的な面白さから、嵐の夜のもうひとつのパラサイト一家の登場で一気にスリラー(もしくはホラー)と化し、パラサイト同士のおぞましい潰し合いへとギアチェンジ。キャンプごっこをするお屋敷と否応なしに水没していく半地下の惨いまでの対比が挟まってからは、宿主との関係性が徐々に変化。遂にパラサイトの怒りの矛先が変わる超サスペンスフルな見せ場から、地下からの救難信号に「夢のまた夢」で応える一周まわってのシニカルエンド…。韓国らしい高い熱量を維持したまま、起承転転転結くらいの激しいドライブ感。圧倒された。というか、もはや酔うレベル。 好みかと言われればそういうわけでもないんですが、本当によく出来ているなー!と感動した。

しかし昨今の日韓を代表する映画がこの『パラサイト』と『万引き家族』っていうのはヤバさを感じますね。実は『万引き家族』はまだ見れてないのでどうこう言えないのですが、同じ是枝監督の『そして、父になる』の二家族の徹底的な貧富さの対比を思い出した。「スメル」的なものがたくさん、そして精緻に散りばめられている。フードコートでのストローがじがじとか。ただ、『そして、父になる』で両家族を結び付けるのは子供取り違えというある種のマジックによるものなので、『パラサイト』の金持ち一家を内側から食い破るような生命力はなく、静かな軽蔑と屈辱を浴びるだけ。(ちなみに、この映画、写真の扱いがめちゃくちゃ良くて、念入りに選定した額縁入りの写真とデジタルカメラに残った未整理のデータの対比、最高です)地下からの復讐といえば、忘れられないのが、去年観た『アス』。劣悪な生活環境によって同じ姿形なのに全く違った性質を獲得した地下の「わたしたち」が、富を搾取した地上の「わたしたち」に復讐する。実は、ヒロインが幼い頃に地下の彼女と入れ替わっており、「ドッペルゲンガー」側がまさかのオリジナルだったというオチ。これ、今思えば『そして、父になる』的なマジックと『パラサイト』的な強烈さを兼ね備えていますね…。

はい。『ミッドサマー』も観ました。

f:id:kotobanomado:20200329160634p:plain

『ヘレディタリー』で懲りてたはずなのに何で見に行ってしまったんだろう…(深い悔恨)。終始、血筋に呪縛されていた『ヘレディタリー』とは違って、今回のヒロイン ダニーは精神不安定だった妹による無理心中により、序盤で家族全員を亡くしてしまう。この時点でかなりショッキングでヒロインにも観ている私たちにもかなりの精神的負荷がかかるのですが、以前からダニーを疎ましく思ってる彼氏のクリスチャンは、その事件の翌日も平気でパーティーに行こうとするし、壮絶な辛さに全く寄り添ってくれない。ホモソーシャルな(女性をおかずにしてばかりの)ゼミ生の集いに逃げて、いつの間にかゼミ仲間と海外旅行すら取り付けている。ダニーも旅行に同行するもホモソーシャルな彼らに与することもできず、微妙な空気感が流れる。呪縛が生まれる程の関係性がどこにもなく「疎外感」しかない。

やっと到着したペレの故郷ホルガはゆるふわなビジュアルとは裏腹に、狂ったカルトコミュニティと判明。クリスチャンと友人のマークは卒論の研究対象として(一歩引いた目線で)調べ始める。ホルガでは、誰もが規定の年齢に達したらライフサイクルを保つため崖から身を投げる(美の象徴だったビョルン・アンドレセンが老いの象徴として登場する衝撃)。その他の宗教儀式にも自ら命を捧げる。全員が「家族」(ホモソーシャルな輪もない)で、視線を、歌を交わし合い、他人の感情を全身で受けとめて同じ熱量で共鳴しあう。要は、死にもルールが敷かれ、ルールを守る限りは家族として承認され(逆にルールを破れば処罰され)、特定の誰かを蔑ろにしたり無碍に扱うこともない。となると、メンタルヘルス的にどちらが健全で、正しいのか、という疑問が湧いてくる。事実、思いがけない形で家族を亡くして、おまけに彼氏たちにもまともに取り合われなかったダニーは、誰よりこのホルガに馴染んでいく。ダンスで高揚した気分もクリスチャンの裏切りを知った時の慟哭も、呼吸のリズムすらホルガのみんながシンコペーションしてくれる。不寛容さを増す一方で執拗に共感性が求められるアンバランスな風潮を反映した現代の寓話だな、と思いました。

冷静に書きましたけど、本来の感想はまったく違いまして…

もう、めちゃくちゃ気持ち悪くて。ストーリー自体は古典的で好き系ではあるのですが、グロい系が苦手なわたしにとっては、視覚的にひたすら生理的嫌悪感を煽り続けてくる感じが、悪趣味としか思えなかった。なんでそこまで執拗に映すの?と。まだ音で怖がらせてくれたら心の準備もできるのに、無音で唐突に酷い死体カットになったりするので、もうこちらとしては薄目待機で防衛するしかないという…。ま、グロ系のホラーはみんなこんなものなのかもしれないけど。おかげさまで、見事、「ミスト」、「八甲田山」、「ボルケーノ」のトラウマ三大映画の仲間入りを果たしました!おめでとうございます!というわけで、わたしは今後、アリ・アスター作品は少なくとも映画館では見ません。清く正しく美しくおぞましいジョーダン・ピール派として生きていきます!