だらだらノマド。

趣味、日常をゆるゆる綴るライフログ。

『バイオーム』と『ある王妃の死』感想。

アーカイブ配信メモ。

『バイオーム』@アーカイブ配信

政治家一家とその家の庭に植わった木々たちの物語。中村屋以外は、みんな人間と植物の二役を演じていて、中村屋だけ子供二役(かと思いきやこれはトリックで、実は後に1人は妄想であることがわかる)。冒頭こそ植物たちの囁きから始まるものの、後半はがっつり人間側の話になる。植物側には大きなストーリーらしきものはなく、ただそこに根付き栄養を取り込み、代々息づいている。"ファミリーツリー"の比喩であり、人間界と対比させるための道具に近い。 

核となる政治家一家は、汚職、家父長制、世襲制、ダブル不倫、出生の秘密、子供への失望…と、昼ドラ顔負けのドロドロ設定。台詞も思わず笑ってしまうくらいベタで、宝塚電撃退団後一発目のウエクミさんがどういう狙いでこれを書いたのか、考えあぐねてしまった。「すみれコード」から解き放たれて、リアルを目指した結果がこれなんだろうか(だとしたら相当ヤバい)。さすがに、人間の醜さの煮凝りを寓話的に描いているつもりなんだろうけど、それにしても稚拙だった。

人間が良かれと撒いた殺虫剤を木々たちは迷惑がるように、全く違う環世界に生きていて、みんな自分達の狭い世界で生きることに必死になっている中で、中村屋だけが、ずぶずぶと醜さに溺れていく大人たちを木の上から眺め、人間界から植物界を橋渡す唯一の存在。でも、地上で蠢く大人たちも彼も誰も幸せにはなれない。このゴリゴリにテンプレ的な血統の話の中で親から劣性のレッテルを貼られる息子役に、歌舞伎役者を当てるって、めっちゃ意地悪いよね、とも思った。

「スペクタクルリーディング」と謳っているだけあって、人間役ではもはや本を離して普通のお芝居チックになっていた。

次回は↓になるようです。

本企画は、確固たる脚本をもとに、朗読劇としてスタートし、VR/ARなどのテクノロジーを駆使し、俳優とバーチャルテクノロジーの間に作り出される関係性を重視しながら、五感で体感していくサイトスペシフィック演劇へと進化する。

青年座『ある王妃の死』@アーカイブ配信

舞台は1895年の朝鮮。侍の時代からわずか30年余りで、急速に近代化を進め、列強国の仲間入りを果たそうと帝国主義街道まっしぐらの日本。日清戦争に勝利を収めて鼻息荒い日本が次に狙ったのが朝鮮で、清国からの独立は果たされたものの、事実上日本の支配が及び、日本・中国・ロシアに挟まれた緊張状態の中で独立と平安を望んでいる。

さらに、朝鮮王朝では、大院君と高宗と王妃の閔妃、息子の世子の派閥があって、実際には王妃が実権を握っているらしい。タイトルで死を予告された「ある王妃」とはこの閔妃のことで、王妃の対日対策の強硬さに、日本側はこの政権争いを利用する形で一度ならず二度までも大院君を傀儡として担ぎあげ、クーデターを起こす。
この「乙未事変」は、日本でそれほど知名度が高くないようで、歴史背景の説明が丁寧になされていた。脚本も演出もシンプルで、まずは、この素材を塩胡椒の味付けのみで、というイメージ。劇団チョコレートケーキに似てると感じた。やはり「知らない」ところからのスタートってこうなってしまう傾向がある。

ストーリーテラーの役割を兼ねた高宗と閔妃の息子 世子の回想から幕を開けるものの、展開の中心となるのは朝鮮国特命全権公使の三浦ら、朝鮮を手中に収めようとする日本のおじさんたちの会話。
ただの会話だけなのに、"男らしさ"の幻想の集合体が、帝国主義思想のストーリーラインを描き、他国を武力で従属させる軍事へとつながっていくのがよくわかる。ここには力で他者をねじ伏せ権力を拡大していく道しかなくって、交渉とか、路線変更なんて、"女々しくて"ありえないのですよね。

後世の私たちから見ると、ただの単なる野蛮で卑怯な謀議でさえ、大義と誇りにすり替わる皮肉。わずか30年余りで激変を遂げた自国を顧みることなく、戦勝の高揚感とイケイケドンドンのムードに押されて、ひたすら邁進していく。このムードだけのビジョンの欠落は、近代だけでなく現代日本にも通じているわけですが。

三浦らが高宗が住まう景福宮を訪問した際、「狐の嫁入り」に遭う。高宗は韓国では「虎の婿入り」と言いますよ、と両国の文化交流を示唆して一瞬和やかになった空気感を、イギリス貴族の「狐狩り」を持ち出して、列強国としての眼差しを投げ返すシーンがハイライト。言うまでもなくこの狐狩りは、有害な男らしさを象徴した"女々しさ"の排除であり、王妃暗殺の隠喩でもある。

この作品に登場する数少ない女性の一人が、王妃暗殺前夜に男たちに投げかける「大義に照らして正しい行いですか?」が一蹴されて、「女には分からなくて残念だね!」と嘲笑されるのもいかにも。綺麗に編まれた良き舞台でした。