だらだらノマド。

趣味、日常をゆるゆる綴るライフログ。

『歌妖曲』と『東京ラブストーリー』

『歌妖曲』@新歌舞伎座

東宝×ヴィレッジ×明治座のプロデューサー陣による"三銃士企画"の第二弾。製作会社の垣根を超えた企画というのも珍しいし(クレジット的には複数の会社になっていても一緒に0から企画ってまずないと思う)、そもそもプロデューサーが表立って企画発表する舞台って日本ではほとんどないので、なんだか楽しそうだなと注目していた。結局、第一弾は観られなかったので、今回が初見。ちなみに、前回はこんなインタビューも出ていた。

“三銃士”企画の第1弾『両国花錦闘士』、待望のアーカイブ配信決定!「いろいろあった…」公演を無事に完遂したプロデューサー三人による初の対談が実現!【前編】 | ローチケ演劇宣言!

新歌舞伎座は、コロナ禍以降初だったかもしれない。売店コーナーが縮小していて、寂しい感じ。チケットの売れ行きが芳しくないようで、割引のリピーターチケットが売られていた。

前回が漫画原作だったのに対して、今回はシェイクスピアの『リチャード三世』を昭和の歌謡界に移した倉持裕さんのオリジナル作品。あまりシェイクスピアっぽさは感じず、むしろ楳図かずお的なSFピカレスク作品に仕上がっていた。

一番の見どころは、明治座新歌舞伎座の空気感をあえて活かした、昭和の歌謡ショーや歌番組のシーン。ただ、曲(和田俊輔さん)から時代の匂いが感じられず、物販のペンライトを振るお客さんも心もとなげで、何だかどっちつかずになってしまっていた。それと、昭和らしさとの取り合わせが良い反面、芝居的に考えると会場のサイズ感とミスマッチ。裏でヤクザが糸引く昭和の芸能界まわりの話が面白くて、もっと濃密な空間で観たかったなーと思ったし、音楽無しのところはマイク無しなので、3階に座ってると物理的に聞こえづらいシーンもあった。あと、時代を往来しながら展開するのは面白いけど、それにしてもあまりにぶちぶちとシーンが切り替わっていくので途中で集中力が途切れてしまったし、何より長い…。

と、作品自体にはのめり込めなかったものの、今回初舞台となる中川大志くんが声よし、顔よし、姿よし、さらには歌も歌えるという無双っぷりで、醜い定とスター桜木輝彦を生き生きと演じ分けているのを観ることができたのは収穫。映像作品でも、コメディセンスがあって面白い役者さんだなと思っていたけれど、まさかこんな才能まであったとは。観劇後、初舞台というのは形式ばかりでアルゴミュージカル出身者ということを知り、道理で…と納得した。売れっ子なので作品を厳選してになるとは思うけど、今後も舞台のお仕事(できればミュージカル)にも数年に一本のレベルでいいので、チャレンジしてもらいたいです。歌のトレーニングしたら「ファントム 」とか普通にできると思う…。

その他のキャスティングもなかなか個性的な取り合わせ。池田成志さん、山内圭哉さん、福田転球さんのワチャワチャトリオを筆頭に芸達者な人が多く、アンサンブルに至るまでそれぞれしっかり印象に残った。

東京ラブストーリー』@シアター・ドラマシティ

【空キャスト】
永尾完治:柿澤勇人
赤名リカ:笹本玲奈
三上健一:廣瀬友祐
関口さとみ:夢咲ねね

Twitter上では今治タオルミュージカルとか今治ブイドイとか随分ネタにされていたけど、タオル以前になんかもうしっちゃかめっちゃかだった…。そもそもなぜ今上演しようと思った(+会社的にGOした)んだろう…?(根本的な問い)

20代のくっついたり離れたり‥っていう「ラブストーリー」は世の中にごまんとあるわけで、むしろこの作品の肝は、バブル期の日本とその中心のキラキラした「東京」部分で、今回、そこからあえて現代に時代を移すからには何か良いアイディアがあるかと思ったんだけど…。

描かれるのは、公園で何の脈絡もなく満面の笑みで歌い踊る若者たちとか、取ってつけたような同性カップルとか、そもそも全く日本の今感のかけらもないテイストのナンバー(『生きる』と同じジェイソン・ハウランド作曲。おまけに内容の重さにもあってなくて、スカピンのThe Riddleなみに不穏で思わせぶりなメロディラインなんだけど、歌ってる内容は、あいつ俺のこと好き違うんちゃうか…みたいな)とか、どこまでも奇妙な空想都市TOKYO…。そして、都会と地方 今治との対比も表面的で雑い。これなら、この間見た『君も出世ができる』の方がよっぽど当時の時代性とマッチしたミュージカルに仕上がっていた。

一方、「ラブストーリー」を描く上でも、この手の話って誰と誰がひっつくかというのが見せ場になるはずで、思わせぶりに焦らしながら山を作れるドラマや漫画と違って、2時間一本勝負の舞台には題材として向いていない。時間内に収めるためにやむなしだったんだろうけど、いくらなんでも偶然居合わせるシチュエーションが多すぎるし、最後の灯篭なんかもはやマジックの域…。なるほど、「東京」部分も「ラブストーリー」部分も失敗してるから、今治タオルだけが記憶に残るのか…と妙に納得してしまった。

あと、違和感を感じたのは、『東京ラブストーリー』という題材を選んだからには、かつてドラマや漫画版が好きだった人たちをターゲット層にしているはずだと思うんだけど、そういう人たちが「あの作品」として観に来て席について、いきなり真っ赤なダンサーが踊ってたら戸惑わないのかな…ファーストコンタクトこれでええんかな…って心配になっちゃった(ダンス自体は素晴らしく上手いのですが)。どこに向けた企画・内容だったんだろう…とことあるごとに疑問が湧き出た。ホリプロさんのオリジナルミュージカルへの意欲を買っているだけに、これはちょっと残念。

とはいえ、役者さんたちはさすがで、柿澤さんは持ち合わせの演技力で細かく積み重ね、作品のツッコミどころも自ら触れて処理してたし、とことんキザな役柄がちゃんと素敵に見えたのは廣瀬さんだからこそ。笹本さんの空気読まない感じとか、あざとさ満点で実はめちゃくちゃ性悪なのでは…と思わせるねねさんもぴったりだった(褒めてます)。役者さん達の力でなんとか成立させていた作品だった。