だらだらノマド。

趣味、日常をゆるゆる綴るライフログ。

『パラサイト』と『シュレック』

年末の感想メモ整理、まだ続きます!

 

『パラサイト』@新歌舞伎座

鄭義信さんによる大ヒット映画『パラサイト』の舞台化。
90年代の関西が舞台になっていて、ドヤ街から幕を開ける。

金持ち家族、彼らに寄生する貧しい家族、実は密かに地下に寄生していたこれまた貧しく行き場のない3つの家族は、みんな関西なまり。金持ち家族は、山内さんのキャラクターも相まって、関西に実際にいそうな品のない成金ワンマン社長感が強く出て、原作から大きく性格を変えていた。

それが鄭さんの味と言われればそれまでなんだけど関西ノリの笑いがクドく(そして別に面白いとも思わない…)、その上異様にアドリブも多くて、芝居の空気が全編を通して必要以上に緩い。

家族が一人ずつ他人のふりして寄生していくってそれだけでウェルメイドな面白さがあるはずなのにその面白さそっちのけで、ノリの笑いへスライドさせようとするのが合わなくて…。あと、その前半のコメディが一家全員が寄生したところで完結して、大雨の夜に第三の家族が出現して「転」を迎えるはずが、そもそものギアチェンジが弱い上に、クドイ笑いも引きずったままなのでサスペンスとしての緊迫感も薄い(音楽も安っぽい)。
それに、この「転」としての大雨が、計画に反して金持ち家族が戻ってくる、雨に打たれた怪しい人物の襲来、半地下の家が水没する、に直結している方が綺麗で、ここを大雨+阪神大震災にするのは、あまり上手く脚色できていないのでは、と思った。あと、災害の説得力として、確かに高台のお金持ちの家は倒壊を免れたかもしれないけど、あの震災時に高みの見物的にいられたのか?あの場所でも揺れはすごかったはずでは?ライフラインは?などなど色々気になってしまって、実際当時神戸に住んでいた人に訊いてみたら、同じく違和感を感じるということだった。

そんな中、かろうじて原作映画と鄭さんの結節点になっていたのが古田新太さんの醸し出す絶妙な空気感だったんだけど、それにしても「転」で出てくる"スメル"のくだりが効いていない上に、最後の誕生日パーティーもあっさりと展開するため、彼が殺人に至る蓄積が不足しているように見えてもったいなかった。
それに、家族全体として見た時、江口さんが飄々とした面白さはあるもののお母ちゃん感に乏しく、古田さんとの両輪を感じられない。『寝ても覚めても』で大阪出身かと勘違いした伊藤沙莉さんはさすが良い空気感は纏っているものの、ストーリーテラーも兼ねた宮沢氷魚さんが可哀想になるくらい役にあっておらず、苦肉の策か、大阪のアホの子みたいなキャラクターテイストにすることで乗り切っているのが痛々しく、この舵取りによって、この作品のテイストがさらに迷走している気がした。

金持ち夫婦は、さっきも書いたように、イヤな感じの成金風になっていて、山内さんの個性がそのまま発揮できるようになっていた。妻の真木よう子さんに至ってはもはや芝居以前の問題で台詞の一言一言が不明瞭な上、台詞に詰まる、言い直す、台詞が飛んで謎の空白を繰り返し、なんかもう色んな意味で怖すぎて直視できなかった。

もう一組の寄生家族は親子3人にすることで、よりどん詰まり感は出ていた。鄭さんはとりわけ行き場なく地下に寄生するしかなかったこの一家に思い入れがあるようで、キムラ緑子さん演じる家政婦のクドキみたいなシーンも、未練を残しながら死んでいくシーンもかなり尺をとって熱心に描いていて、緑子さんもどれに応えて大熱演はしているのだけど、全編通してみるとバランスが悪く、わたしは腑に落ちなかったかな…。

シュレック』@ライブ配信

配信があることを直前に知り観た。あの映画『シュレック』のミュージカル版でトニー賞のパフォーマンスでも目を引いた作品。去年、オーディション要項が突然解禁されたと思ったら、なんとその数ヶ月後にはトライアウト日本初演。普通に考えて主演級の役者は数年先まで埋まっているはずで券売的にはかなり心配ながら実力派をそろえた布陣で、今年引き続き本公演を迎えたという謎企画。

セットは超シンプルでほとんどプロジェクションマッピングで処理していた。これはもうひとえに予算の問題かと思う。映像との兼ね合いもあり照明も制限があるとは思うのだけど、ミュージカルというよりやけにキャラクターショー風で必要以上にチープに見えてしまったのが気になった。

ただし、それを補うのがちゃんと笑える脚本(翻訳)とキャストの熱意とスキル。

シュレック』は元々ディズニー的な御伽話をメタ的に皮肉ったブラックコメディで、風刺ギャグやネタもふんだんに織り込まれているけど、これがしっかり日本語版の台詞や歌詞に日本バージョンとして落とし込まれててしっかり笑えるコメディになっていた。それでいて、古い御伽話のテンプレ、ハッピーエンドを疑ってみせ、バージョンアップしてみせる力強いエンパワメント作品に仕上がっている。
それをずっとマスク被ってるからまるで面影のないspiさんが絶妙なハマり具合で演じていて、説得力増し増し。フィオナの福田さんはもうちょっとライトなコメディ感が欲しかったなと思いつつ歌は安定。ドンキーの吉田さん、ファークアード卿の泉見さんはコメディセンスも歌も良く、素晴らしい!アンサンブルに至るまで隅々までみんな歌が上手く、なおかつ熱量も高く、カンパニー一丸となってより良い作品にしようと取り組んでいるのが伝わってきて、素晴らしい舞台でした。