だらだらノマド。

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宝塚宙組『壮麗帝』感想

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今まで観てきた舞台作品の中で、何が目の前で起きてるのか一番わからなかったのはこの移動式舞台なのですが、そこまでとは言わないものの、似た匂いを感じました。

まずオープニング直後の幕前芝居で何が起きてるのか、よくわからない。宝塚にありがちな説明台詞調の芝居が全然頭に入ってこないんですよ…。①オスマン帝国内の覇権争い②王族の家族構成③スレイマンの未来の妃マヒデヴランのことが、一気に説明されているはずなんですけど、頭に残るのはスレイマンの妹ハティージェのどうでもいい台詞「ちょっと見たいものがありますので、先に行ってますわ」なんですよね。「ちょっと」見たいものとは…と異様に気になってしまう。

語学力の極めて低いわたしがやりがちな失敗なので間違い無いと思うのですが、書き手として洗練されてないと、無駄な修飾語や副詞を入れがちで、台詞のひとつひとつが引っかかってくる。「なかなかに毛色の違った」とかも無性に気になった。そして、流れを削ぐだけのセンテンスやダイアローグとして不自然な部分(スレイマンとイブラヒムの「早かったな」「そうですか?」とか)もたくさんあって、一くんだり、一エピソード単位の面白い/面白くない以前のところで台詞が整理されてなくて、一向に話が入ってこない。ちなみに、ハフサ様登場の歌が思いっきり「王家に捧ぐ歌」テイストで、語彙力がないとこの曲調になるのかなと思いました。

物語としてはトルコに場所を変えただけで、「王家の紋章」だとか「天は赤い河のほとり」のような典型的な王朝もの。なのに、悪い意味でその王道盛り上げフォーマットにのっていかず、ある意味オリジナリティが高いといえるかもしれない。今回の作品なら、ヒュッレムとの恋模様、他国との対立、宮廷内の権力抗争、家臣との絆や裏切りのような、いくつかの要素が複合的に掛け合わさって初めて盛り上がると思うのですが、ヒュッレム毒殺の話が降ってわく→女官長が猛烈に長い説明台詞を発して毒殺失敗、ヒュッレムの体調が悪い話が降ってわく→次のシーンでヒュッレム急逝のように、伏線を仕込むどころかそれぞれの要素の因果を健忘症的に並べ書くのが精一杯で、物語運びの動線ができていない。ずっとその調子なので、要素ごとにばらけたまま掛け合わさって化学反応を起こすことがなく、ドラマとしてうねりが起きない。

浅学なもので、史実としてのスレイマン大帝とヒュッレムも、史実を元にしたドラマや漫画が存在することも観劇後に知ったのですが、それなら余計に何とかなったのでは…と思ってしまいました。

他の王朝物にはないモチーフとしては、ハーレムという特殊な設定があるわけですが、説明台詞以外に特に描かれない。当然ながらすみれコードがあるのでそこまで際どく描くことはできないけど、逆に宝塚ならではの華やかにショーアップしたシーンで見せられたのでは(というか、全体的に台詞で解決しようとするきらいがあるのですが、台詞が書けないならそういうシーンで誤魔化せばいい)。あと、スレイマンとヒュッレムのラブシーンでは、樫畑先生の萌シーンらしいものがいきなり挟まるんですが、スレイマンの人物像が全く描かれてないままなので、ただのエロオヤジにしか見えなくて(妊娠という言葉も頻発して生々しいし)本当にキモかった(こういうジェンダー観が年々無理になっていて、そもそもこういうシチュエーションに全くトキメキも萌えも感じられないという私の問題も大きいけど)。

ハーレムと宮廷内での権力闘争は、本来、ヒュッレムを中心とした女の話なんですよね。ヴィランズとして描かれているのはマヒデヴランだけど、ヒュッレムも、いかに皇帝に認められて地位を築くか、というハーレムで覇権を争うしたたかな女性の一員だと思うので。でも、これも男役中心の宝塚で描くには限界のあるモチーフでしょうし、おそらくそこをつっこんで書くスキルもないので、あっけなく終了。スレイマンだけでなくヒュッレムの人物像も宙ぶらりんになってしまう。

王朝もののフォーマットに則って、要素を整理していけば目新しくなくともそれなりに宝塚らしい作品はなったと思うので、逆に何でこうなってしまったのか不思議。でも、これを見る限りでは今回の作品がたまたま不出来だったというよりは、劇作家として確立していないレベルだと感じました。わたしはこのチケット料金、規模感でましてや今後、大劇場でやっていくにはキツイと感じたけど、SNSでは絶賛されていたり、逆に、知人談では「デビュー作では伏線回収すらできてなかったので大進歩!」ということで、おおぅ‥となっています。

桜木さん主演作として観ても、元々衣装に着られがちな桜木さんに、何故わざわざこんなデカめのコスチュームプレイをさせてしまうんだろう…というのが一番の感想。さっき書いた通り人物像が描けてないのでお芝居としてのしどころもないし。

相手役の遥羽さんは終始OL口調で不出来な台詞を不出来なまま発していて逆に正しさを感じた。2番手ポジションの和希そらさんはフィナーレの群舞が最高すぎたので、もうそれだけでこの虚無作品を観た甲斐があった気がしました。鷹飛さんは悪役だからか余計に男役らしく発声を作りこもうとしてるようだったけど、ちょっとスパイラルに陥ってる感じ。

 

宝塚再開は喜ばしいことなのに、何で一発目の感想がこんななんだろう…(遠い目)。観劇の機会が減って観られる作品が自ずと絞られてしまうと、見る目がシビアになってしまいますね!(ということにしておきます)