演出・振付:ニック・ウィンストン
出演:ラミン・カリムルー、サマンサ・バークス、ルーク・ウォルシュ、佐藤隆紀(LE VELVETS) /エリアンナ、増原英也、飯野めぐみ、伊藤広祥、大塚たかし、岡本華奈、河野陽介、柴原直樹、仙名立宗、染谷洸太、菜々香、二宮愛、則松亜海、原田真絢、武藤寛、森山大輔、綿引さやか、和田清香
『CHESS』はこれまで日本人キャストでコンサート版2回、ミュージカル版1回上演。皆勤賞で観てきました。今回は新シリーズ?のようで、主要3名とクリエイティブチームのみ招聘、その他キャスト・スタッフは日本人という共同製作バージョン。
感想を一言で言うなら、歌がうますぎる、に尽きる。アナトリー役のラミンは安定した伸びのある声、フローレンス役のサマンサはどの音域も癖なくオールマイティに、ルークのフレディは声が細めで2人に迫力負けしている感はあるけど、高音までしっかり。特に、Pity the Childは背景のスクリーン、酒瓶やドラッグの小道具も手伝って、孤独な叫びとして研ぎ澄まされたシーンになっていた。この強力なプリンシパル3人に加わるのが、アービーター役の佐藤さん。朗々とした歌いっぷりで聞き劣りせず存在感も充分、カッコ良かった。アナトリーの妻スヴェトラーナにはエリアンナさん。サマンサとのデュエットも堂々と渡り合っていて歌唱力的には素晴らしいけど、スヴェトラーナのニンではない。モロコフは二期会の増原さん。さすがオペラ歌手の方だけあって、ミュージカルではなかなかお目にかかれないバスの響きを堪能した。
セットは、階段がメインで奥にスクリーン、サイドにバルコニー的な迫り出しというありがちなもの。ただし、階段に一捻りあり、段差が大きく素材感も重厚で、それ自体に腰掛けて芝居したり小道具を自然に足し込むこともできる。それに、垂直面が抜けているので、舞台奥から照明を当てると全く違った表情になって面白かった。スクリーンには冷戦下の状況や心象風景を映して、時代背景を補足。うん…舞台の映像って、国内外問わずダサいですよね…。
さすがにこれまで3回も観てきているので、オギー版のあれこれが至るところでフラッシュバックする。わたしはCHESSの悪魔的な旋律にぞっこんなので、その引力に思いっきり引き寄せられたようなオギーのファンタジックな演出は嫌いじゃなかった。
チェスの才能によって政治利用されながら自身の自由を勝ち取ろうとするアナトリー、辛い人生から逃げるようにしてチェス=ようやく手にした自己表現として奔放に振舞うフレディ、感情を封じ込めてチェスを通じて理性的に物事を見極めようとするフローレンス。それぞれを取り巻く国家の思惑や取引と3人の立場、感情が入り混じりせめぎあう…とても複雑に…。今回のバージョンがこのCHESSの物語を明確に描けてたのか、甚だ疑問。フリー素材みたいな冷戦のイメージ画像は山ほど出て来たけど、国家同士の駆け引き(そしてそれがCHESSと重なり合う様子)はほぼ無かったし、フローレンスの父親についても尻切れトンボ。歌詞や台詞も、何言ってるかわからなかったのはオギーのせいかと思ってたけど、今回の字幕を読んでも全くわからなかったですね。字幕がこなれてないように思えたし、あまりに概念ばっかりで結局思わせぶりだったので。となると、どうせ描けてないなら、美しいオギー版でいいやん、ってなった。作品の出来からしてミュージカルとしては穴が多いので、コンサートと割り切って楽曲を堪能する方がいいんでしょうね…いつかミュージカル版として完成するのを見てみたい気もするけど。。
さて、オギー版を思い出したところで。日本版の記憶も大事に留めておきたいと思います。
梅田芸術劇場東京事業部チーフプロデューサーの篠原江美さん、仕事復帰を目指して療養していたが、1月21日にご逝去されたとのこと。『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』や2012、15年の『CHESS』をプロデュースされています。
— 大原 薫 Kaoru Ohara (@theresonlyhere) 2020年1月28日
今回のCHESSの開幕を前に他界されていたのですね…。https://t.co/UotnlnNUW3