だらだらノマド。

趣味、日常をゆるゆる綴るライフログ。

瀬戸芸旅 その2(豊島)

その1はこちら。

kotobanomado.hatenablog.com

 

【2日目】

豊島へ&豊島の巡り方計画

高松〜豊島間は高速船のみで、瀬戸芸期間中の土日は積み残しが発生することもあると聞いてたので、9:07の舟に乗るべく30分前には港へ。すると、この日は豊島の混雑予想がDということもあってか8:50に臨時便が出るとのことで、あれよあれよという間にそちらに乗船することに。この手の高速船には久々に乗ったので、前日に乗ったしましまめおん含め、いかにフェリーの乗り心地がいいかを思い知らされた…。自由に動き回れるっていいね。

予定よりかなり早く島に到着。

みんな一斉にレンタサイクルを借りてすぐに売り切れていた。それを見て若干焦りつつ、わたしは自転車を車道で乗ったことがない田舎の人間なので、港周りをうろうろしながら、昨日綿密に練ったスケジュール通りのバスを待つことに。
当初は、家浦に着いてすぐに豊島美術館(要事前予約)、唐櫃港、唐櫃岡、甲生、家浦の順に回ろうとしてたけど、家浦〜甲生間のバスの本数が少なく、なおかつ家浦の作品が16:30入館締切ということで、思うように回りきれず…。途中、タクシーでチートできないか島に一社しかないタクシー会社に電話しても貸切以外の単発、短距離移動はお断りな雰囲気で諦めかけてたところ、前日にひらめいた。

家浦〜甲生のバスはほとんど発着が1時間間隔だけど、2本だけ30分間隔の便があり、そこで時間を巻けるのでは、と。それが朝の便のバスだったので、まず甲生へ行き、次に島キッチンの予約を取っている唐櫃岡、豊島美術館、唐櫃港、家浦にすると全部時間内に回れるスケジュールに。そうなると、豊島美術館の予約を取り直す必要があるわけだけど、いったんバスの段取りまで全部書き出してみて、豊島美術館の希望時間を割り出して見ると、残1で奇跡的に空きがあったので、元々の予約をキャンセルして速攻押さえた。

甲生周辺

ということで、計画通り、まずは家浦から甲生へ。元からあるバスの便と瀬戸芸臨時便でバスの種類が違う。元からあるバスはICカードOKの赤バスで、臨時便は現金のみの中型バス。バスでの両替不可と聞いてたので(実際には、両替機がないだけで、運転手さんが崩してたのは見た)朝にホテルで両替してもらっていた。

benesse-artsite.jp

バスの混雑も考慮すると、甲生と唐櫃方面は1日で同時に回りきれないというツイートを旅行前に見かけてかなりビビってたんだけど、バスに乗ってたの、わたし入れて3人だけだった。しかもわたしは冨安さんの作品がお目当てだったんだけど、ふたりは「海を夢見る人々の場所」の方に行かれたらしく、なんと贅沢に1人で体験することができた。これは作品の性質からいってもかなり貴重な体験だったと思う。小泉八雲の「和解」から着想を得たという古民家まるごと一棟使ったインスタレーション。屋内に入ってふと目線をやると、これ。日差しの具合もひっくるめて、気配を感じて怖い。

昨日見た、「いないのにいる」レアンドロ・エルリッヒと若干リンクも感じた。朽ち果てたのに、醒めない夢。

バスの発着時間的に「海を夢見る人々の場所」は諦めた。甲生は作品が少ないからか、本当に人がいない穴場。諦めずに来てよかった。

唐櫃岡周辺

いったん家浦に戻り、唐櫃方面のバスに乗り換えて唐櫃岡下車。
まずは急勾配の山道を20分ほど登ってボルタンスキーのささやきの森へ。森の中に開けたスペースがあって、風鈴が揺れている。

この日はほぼ風がなかったから、虫や鳥の声に隠れるようにさらさら鳴っていた。道すがらお寺や墓地を見かけて、おのずと死、弔いや鎮魂へと意識が向かった上で、このささやかな音を聴くことになるので、泣きそうになった。風鈴の短冊には誰かの大切な人の名前が書いてある。もういない誰かの面影を探して出会うとするなら、こういうささやかな音がぴったりな気がした。
続いて、西本喜美子さんの写真展へ。メディアでもよく取り上げられているエネルギッシュな写真家。古民家で展示することで、より活き活きと生活感を感じられる。

「空の粒子」とその周辺。なんてのどかなんだろう。

なのに、この景色とは裏腹のものものしい建物が。ウサギニンゲン劇場とは。

ピピロッティ・リストの映像作品は、鮮やかなイメージが溶け合う若干うなされ気味の夢。予約時間になったので、裏にある島キッチンへ。たまたま予約締め切りの2日前にHPを見てて、13時の枠だけが空いてたので速攻予約したもの。すぐ近くにある食堂101号室も島キッチンもかなり賑わっていた。島キッチンは、予約のないお客さんもテラス席でカレーならそう時間がかからずオーダーできるようだった。

通されたのは、そのテラス席が見えるお座敷エリア。

後ろはカウンター席になっていて、他のお客さんとは一定の距離が開けられてたので、密状態ではなく、ホッとする。
ドリンクメニューにオリーブジュースがあって、もしかしたら昨日飲んだのとは別ブランドかもとオーダーしたら、全く同じものだった。そりゃそっか。

定食。メインの鯛がおおぶりで贅沢感は感じられるのだけど、正直、全体に味付けがあまり好きになれなかった。。

豊島美術館

唐櫃岡からバスで豊島美術館へ。

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完全予約制。当日まで予約を受け付けているけど、人気の時間は早々埋まるので、予定が組めた段階で予約しておくほうがよさそう。当日朝8時まで無料でキャンセルできるのも親切。
海にそのままつっこんで行くんじゃないかと思う道と棚田という絶景の中、バスを降りえう。

ここから少し下ると、まるで古代遺跡のような豊島美術館が。

手前にあるチケットセンターでチケットを発券後、遊歩道を数分歩いて靴を脱ぎ入館する。

昔、日曜美術館か何かで内部を見たことはあったけど、まさかこんな広い空間だったとは。丸くぽっかりと大小二つの穴が空いていて、そこから日が差し込んでいる。穴の両端には紐がゆるく掛けられていて、ゆったりと形を変えながら揺蕩って、風を可視化してくれる。

それ以外は辺り一面、白い壁に覆われている。床のあちこちには水溜まりができていたり、白いボールのようなものが散在してるので、うっかり踏まないように注意しながらそっと歩く。水滴がどこからともなく湧き出てきて一定の大きさになると、ゆるやかなカーブをころころ転がって大きな水たまりに合流する。もしくは、小さな穴にじょろじょろと吸い込まれていく。音が反響するつくりになっているから、水の吸い込まれる音までよく聞こえる。あとは、外から聞こえる鳥の鳴き声や自然の音。それを聴きながら、みんな静かに寝転がったり瞑想したりしていた。なんだろう…永遠にこの時間が続けばいいのに‥というか、天気や水の流れが時間と共にちょっとずつ変化してるだろうに、時間が止まってるかのような、不思議な感覚。

静かな空間といえば金沢の鈴木大拙館も素晴らしかったけど、唯一無二の、ここでしかできない体験だと思う。迷うからあんまり好きではなかった西沢さんの建築だけど、ここは本当に好きだ(迷いようがないし)。ここに来るだけでも豊島に来た甲斐がある。帰りにうっかり年パスを買いそうになってしまった。

唐櫃港周辺

豊島美術館からバスで唐櫃港へ。ここには、絶対に行きたかったボルタンスキーの心臓音のアーカイブがある。ささやきの森みたいに坂道ではないものの体感的には同じぐらいの距離感。途中で、有名な「勝者はいない」に行き当たるも、隣にいた禍々しいドラえもんインパクトが強すぎた。

歩いてる途中でカメラを落下させバッテリー部分の蓋が閉まらなくなって絶望感を抱えながら、到着。いつの間にか砂浜近くまで来ていて、さざなみの音が聞こえる場所に佇む建物。

出迎えるスタッフさんたちはみんな白衣を纏っていて、まるで研究所のよう。その名の通り、心臓音のアーカイブ施設で、各地で収録された心臓音もありつつ、この施設に訪れた人たちが新たに収録することもできるので、心臓音は日に日に増えていき、行った時点で2万だったか4万だったかの膨大な音が記録化されていた。

心臓音のプロフィール紹介ブースを通って、隣の暗闇の部屋へ入ると、さっき紹介された人の鼓動が爆音で鳴り響き、その音と連動して天井から吊るされた一つの電球が明滅。すると、壁中に掛けられた四角いガラスが黒光る。生と死が同時に襲いかかってくるような感覚で、不安感に駆り立てられてしまう。

その部屋を出ると、明るいリスニングルームが設けられていて、これまで撮りためた心臓音を、国や時期、名前、登録番号から、PCで検索できるようになっている。適当に検索をかけて聴いてみると、確かにみんなそれぞれちょっとずつ違う音がする。登録の備考欄は自由に書けるようになっているらしく、ちょっとしたメモが書かれていることも。ある人は、「存在した証」と書いていた。そう、これ、大切な人がたとえ亡くなったとしても、ここで鼓動を聴けるようになってるんですよね。リスニングルームの窓からは海辺が見えるようになっていて、その波間を見ながら、生きた証に耳を傾けることになる。あまりにエモーショナルすぎてこみ上げるものがあり、長くいられなかった。

大切な人の記憶を思い起こさせる風の囁き、変わらぬ時間が永遠に続きそうな豊島美術館、そして、鼓動という物理的な、限りある生命の証と出会う心臓音のアーカイブ。それぞれのロケーションも、ここでしかこの作品は成立し得ないと思わせる一体感があり、この3つを豊島で体感できたのは、わたしの人生にとって大きな経験になった。

瀬戸芸の中心は直島で、作品数も多くて大好きな島だけど、豊島のこのド直球に胸に響く三本柱のパンチ力には叶わないかもしれない。

家浦港周辺

日暮れが近づき、唐櫃→家浦方面のバスの乗客はさすがに多かった。それでも、ぎゅうぎゅうまではいかない。なんとか閉館までに針工場へ行かねばと思い、港から急ぎ足で針工場へ。ここは最寄りのバス停が甲生方面の路線になるのがネックで、港から歩くと10分以上かかって焦る。16:30クローズということで急いでたのに時間延長してた…。そういう情報、デジパスにも反映してほしい。

慌ただしく元来た道を引き返し、豊島横尾館へ。ここは港から徒歩で5分ほど。

横尾さんといえばY字路だけどY字路までいかずとも分かれ道に経っていて感動した。

見るからに怪しさ満点。神戸の横尾記念館よりさらに建築からして横尾さんのド派手で猥雑なエッセンスが凝縮されていて面白い。

写真NGの館内は一部床が透明で、外から続くド派手な池が見下ろせるようになっている。大きな鯉が悠々と泳いでいた。

ここのスタッフさんは学芸員さん的な感じでクイズ形式で作品のガイドをしてくれたんだけど、「『原始宇宙』に描かれたこの人たちが誰だかわかりますか?」と尋ねられ、宙組版「ザ・レビュー99」のポスターだと即答できるヅカオタぶりを発揮してしまった(もちろん実際には答えてはいない…心の中で早押し…)。

圧巻は何といっても塔部分をまるごと使った「滝のインスタレーション」。横尾さんがコレクションした世界各地の滝の絵葉書が塔の内部にぐるりと貼られていて、本当に上から大量の水が降ってきそうな迫力。この狂気と耽美が入り混じった感じ、「鏡地獄」じゃないけど、乱歩的な世界も感じて好き~となった。

「原始宇宙」と「滝のインスタレーション」はここから写真が見られます。

gotokota.com

唯一撮っていい、ぎんぎらトイレ。

余裕を持って港へ戻ると、すでに行列が。若干焦ったけど、増便されてスムーズに乗り込むことができた。

ビビっていた割に、go to以降の日程で狙ってる人が多かったのか、混雑予想よりはるかに空いてたっぽくって、交通も作品めぐりもストレスなく回れた!いい疲労感でホテルへ。

この日も、うーばーでラーメンを食べ、2日目終了!