だらだらノマド。

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『日本怪談歌舞伎』@松竹座 感想

どういう感想を抱くか観に行く前からわかりきってたけど、Jホラー×歌舞伎ときたら、観に行かないわけにはいかないよね…。

『リング』の貞子×『播州皿屋敷』。井戸を共通項に二つの物語が交錯していく…はずが、貞子の存在が宙ぶらりんになったまま(物理的にもフライングで宙ぶらりん)終わっていった。。。

もう冒頭からして、舞台中央に古井戸どーん、スポットライトばーん、派手な照明と音楽で貞子が登場して踊りまくる(貞子はなんと皆川まゆむさんでした)という光景に、あー…となってしまった。その上、続く現代パートが異様にぬるい。なんとも言えないテンポ感で、なおかつ刑事たちがいちいち意味ありげな芝居をするので、どういうことだろうと思ったら、現代パートも歌舞伎の役者さんがやっていた。なるほど。

現代パートでは、貞子の存在、彼女の呪い、彼女が憑いたメディア(VHS、スマホ動画)どれにも全く関心が寄せられておらず、とにかく7日後に死ぬことだけが延々と説明される。前半戦はこの現代パートと歌舞伎パートが交互に進むんだけど、この切替も特に工夫がなされてるわけでなく…本当に別個のものを並べてみたという感じ。現代パートから歌舞伎パートに移行するインターミッションとして、とってつけたように、貞子がすっぽんからセリ上がってまたすぐセリ下がっていく(我々も古井戸を通って時空を超えているのだろうか…)のには笑ってしまった。

一方で、『播州皿屋敷』パートは、愛之助、壱太郎、莟玉が早替わりで二役をやっていて、歌舞伎として普通に楽しめる。
なかなか二つの世界が掛け合わされずに進む中、ようやく物語に緊張感が出るのは、『皿屋敷』の代名詞 責め場と言われるシーン。お菊が家宝の皿を1枚紛失したという嘘の咎で責め立て、なぶり殺して死体を井戸に放り込む。すると、死んだはずのお菊の声で「1枚…2枚…」と聞こえ始める。

皿屋敷』自体、今回初めて観たので、通常版からどれだけ改変してるのか検証できてないけど、今回を見る限りでは想像以上に残忍でおどろおどろしいシーンだった。かなりインパクトが強いので、これを冒頭に持ってきて、宝塚の石田先生お得意の手法で、メタ的に現代パートを持ってきた方がまだ物語がまとまったのでは、と思ってしまった。
あと、井戸が物語の共通項としては全くといって良いほど機能してないのに、時空を越える装置としては犬夜叉ばりに活躍する。お菊を死に追いやる鉄山とその手下たちが井戸を通じて現代へやってきて、祓い屋の室戸と助手の高松らと出くわし、だんまりになるのには笑った。ここが一番のハイライトシーンだったと思う。

だんまりのお約束として、いわゆる"宝物"が取り違えられるのだけど、室戸の手には鉄山が隠し持っていた件の皿一枚、鉄山の手にはスマホが渡ることになり、これ、取り違えた当の本人たちは、だんまり史上最高に「これなんやねん状態」になっているのでは。スマホを持つ鉄山以上に、スーツ姿で皿を持って見得をする今井翼氏がめちゃくちゃ面白かった。ここが唯一、二つの世界が取り違えられて、いい意味で混線し、ノイズが発生してた。

この取り違えによって、スマホを手にした鉄山の手で、VHS→スマホと遷移してきた呪いのメディアが掛け軸になったりするのだけど、掛け軸からの呪いの拡散は未遂に終わるので、別にそこから話が膨らむわけでもない。

わたしは、てっきり井戸を通じて、非業の死を遂げた2人の女(貞子とお菊)の呪いが接続する話が見られると思っていて、Jホラーのいつのまにか複製され無作為に伝播、蔓延していってしまう恐怖と、歌舞伎・怪談的な情念の世界がどう掛け合わさるか、という期待をしてたんだけど、今井翼が大事にかかえて見得を決めてた皿のおかげで、お菊は意外とあっさりと成仏してしまい、こちらも殺されてしまった許婚 船瀬と共に爽やかに去っていった。

これはこれで、壱太郎くんとまるるの美しいシーンにはなっているものの、結局、鉄山の権力を手にするため邪魔者を殺す邪念、怨念が残る形になって、この掛け合わせってなんのためだっけ?と首を傾げてしまった。権力構造の底辺にいて生前には抵抗もできなかった非力な人間が、死後いよいよ力を持って、その構造を転覆させるのが怪談の怖さであり真髄で、貞子にも通じると思ってたのに、結局、男の権力闘争の話で上塗りされて幕を閉じてしまう悲しさ。

そして、謎のダンサーがフラメンコ的な舞を披露すれば、それが呼び水になって、今井翼氏がお得意のフラメンコで呪いを祓う。貞子登場シーンの照明や音楽、全てひっくるめて全体的に安いオリジナルミュージカル感があり(それこそG2さんの「バイオハザード」のゾンビYOSHIEさんを思い出したりもした)、物語自体もかけ合わさっていなかった上に、歌舞伎とJホラーの結節点として、この安いミュージカル風演出を選ぶって、なんて安直かつセンスが悪いんだろう…と思ってしまった。

歌舞伎、Jホラー双方ともに、今回の舞台に引用できる演出がいくらでもあったと思うし、南座の『四谷怪談』ですらああいう演出だったから、少なくとも花道を活用した何かしらの仕掛けはあるだろうと花道がよく見える席を選んだけど、0だった。。。わたしが観劇したのは初日すぐで、そこから日ごとに演出が変わっていったらしいけど…。

今回の企画がどこから生まれ、どう練り上げられたか詳しいことは知らないけど、松嶋屋秀太郎さん時代含め)の新作歌舞伎の系譜として見ると、ある意味一貫して見えてしまうのも悲しい。歌舞伎好き・ホラー好きどちらから観てもなんだかなぁ…な作品なのでした。